『パーフェクトブルー』は今こそ観るべき! 今敏監督の練りに練られた演出の妙味

『パーフェクトブルー』は今こそ観るべき一作

 25年前の映画公開時にマスコミ向けプレス資料の中で、今監督が本作の構成や謎かけについて興味深いことを書いているので少々引用しよう。「シナリオの段階から、わざと分かりにくい話になっているのは確かです。(中略)作品を完成した今では、もう少し説明不足にしてもよかったかななんて思っています。観た人が困るようなものでもいいんじゃないかと」。この映画は割と序盤から、未麻の周辺に怪しげなストーカー風の男がうろついていることが観客に示されており、彼の行動は実に怪しげだ。

©1997MADHOUSE

 次々と起こる殺人事件の中、未麻のクローゼットの中から血痕のついた洋服が出てくることで、強度のストレスから二重人格化した彼女自身の犯行か? じゃあアイドルストーカーの男はミスリード(引っ掛け)なのかな、と観客が推理を巡らせる。本編を全て観終えた後になってみれば、そういったサスペンスの数々も謎の幾つかも、今監督の見事な仕掛けに騙されていたことに関心してしまうのだが、監督が言うほど「分かりにくい話」でもない。

 『パーフェクトブルー』の公開時期に前後してテレビ放送が始まった『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年~1996年)と、その完結編映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)などの作品を経て、何か意味ありげな設定の裏側をファンが考察、研究するアニメ市場が成熟して行った。

 映像ではこう描かれているが、「実際は映像通りの出来事が起きているとは限らないのでは?」と、監督の演出意図を読み解こうとするアニメファンが急増したのだ。『パーフェクトブルー』は犯人を匂わす様々な演出が仕掛けられているが、それらの映像に惑わされずしっかり観ていれば、今監督のトリックに引っかからずに真犯人に辿り着けるはずだ。

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 アイドルの偶像を追い求めるあまり凶行に走る者、狂信的なストーカー、B級アイドルの挫折とプレッシャーなど、2020年代の今だからこそ深く楽しめる要素が盛りだくさんのこの映画。「4K上映を見逃した!」という人は配信で観る手段もあるので、是非触れていただきたい。インターネットが生活のインフラ化していない90年代の作品でもあり、“HP(ホ-ムページ)にリンクを張る”という言葉の意味が理解できない未麻に、日高マネージャーが「パソコン通信みたいなものよ」と説明する件に、製作年度の時代性が見えるところも面白い。

■公開情報
『パーフェクトブルー』
期間限定公開中
監督:今敏
声の出演:岩男潤子、松本梨香、辻 親八、大倉正章、古川恵実子、新山志保、堀秀行、篠原恵美ほか
原作:竹内義和
プロデューサー:中垣ひとみ、石原恵久、東郷豊、丸山正雄、井上博明
脚本:村井さだゆき
キャラクター原案:江口寿史
キャラクターデザイン:濱洲英喜、今敏
作画監督:濱洲英喜
色彩設計:橋本賢
美術監督:池信孝
演出:松尾衡
制作:マッドハウス、ONIRO
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