『禁じられた遊び』に感じたJホラーの原点 “恐怖と笑いは紙一重”に向き合った一作に

 “恐怖と笑いは紙一重”。ここ数年の中田秀夫のホラー作品は、その言葉をひとつの仮説としながら作りあげられている傾向が強い。というのもやはり、代表作である『リング』でテレビのなかから這い出るようにして登場したホラーアイコンの貞子がいつの間にかキャラクター化してしまい、25年前にあったような絶対的な恐怖が薄れてしまったからであろう。もはや“出てくる”だけで怖い幽霊や怨霊などを創りだすのは決して容易なことではない。

 2019年に公開された『貞子』では、いまかいまかと待ち望まれるようにして貞子が這い出してきたが、その光景はもはや恐怖描写のピークというよりもエンターテインメントとしての見せ場に近いものがあった。もっとも、そうして“ホラー”が老若男女楽しめるエンタメ化したというメリットはあるのだが。結果的に、続く『事故物件 恐い間取り』においても、序盤こそ不気味さにあふれた純然としたJホラーを貫くと思わせ、終盤は極めてポップな“線香ふーふー”を駆使したバトルに徹する。公開まで詳細が伏せられていた『“それ”がいる森』に関してはSF要素の強い変わり種で面白い映画であることには変わりないが、いわゆるJホラー然とした水っぽい怖さは見られなかったのである。

 そう考えると、はなっから“ホラーエンターテインメント”と位置付け、ホラーアイコンの存在を明示し、“恐怖と笑いは紙一重”であることを前面に打ち出した『禁じられた遊び』はなんと潔いことか。重岡大毅演じる伊原直人は、「トカゲの切れた尻尾を土に埋めて呪文を唱えればまたトカゲが生えてくる」という冗談混じりの嘘を息子の春翔(正垣湊都)に教えると、春翔はそれを信じてしまう。その直後にファーストサマー・ウイカ演じる妻の美雪と春翔は事故に遭い、美雪は死亡。なんとか一命を取り留めた春翔は、美雪の指を庭先に埋め、トカゲの尻尾にしたのと同じように呪文を唱えるのである。

 この前提部分、すなわち「事故に遭った妻を蘇らせるために、禁断の方法を用いる」という一連は、落合正幸監督作『パラサイト・イヴ』を想起させられる。思い返してみれば、同作はJホラーが確立した『リング』のちょうど1年前に、同じ東宝邦画系チェーンの正月第二弾映画として公開されたSFホラー作品。それに倣った筋書きが見られるあたり、25年の歳月を経て、貞子が世に放たれる前に回帰しようとしているようにも思えてしまう。また同時に、この美雪が今回のホラーアイコンとして機能することが前もって言われている以上、春翔という子どもの無邪気さも相まってスティーヴン・キング原作の『ペット・セメタリー』のにおいすらも感じる。

 さらにこの“蘇りの禁忌”に触れる物語は、同時に別の視点を有することになる。7年前の回想として描かれるのは、当時は直人の同僚だった橋本環奈演じる倉沢比呂子が、上司によるストーカー行為から助けてもらったことがきっかけで直人に恋心を抱き、途端に奇怪な現象に見舞われていく様だ。ここで発揮されるのは、美雪のサイキックな生き霊としての破壊力であり、後々明らかにされる美雪のバックグラウンドを踏まえると、土から這い出してくることも含めて、これまたキング原作の『キャリー』に近しいものがある。

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