『ホーンテッドマンション』に感じる異様な奥行き 娯楽作にとどまらない内容になった理由

 音楽の歴史でも知られるニューオーリンズでは、「ジャズ葬」という特徴的な葬送も有名だ。死者を棺に乗せて埋葬するまでは厳かに見送るが、墓場からの帰りには「聖者の行進」など賑やかなディキシーランドジャズの演奏で明るくパレードしていく。本作や2003年版のラストで、この「聖者の行進」が流れるという演出には、そんなジャズ葬と共通する、一連の儀式が終わるイメージという意味が込められていると思われる。

 ラキース・スタンフィールドが演じる主人公のベンが、本作の冒頭部にて観光ガイドをしているときに、観光客たちから幽霊の話題を期待される場面があったように、ニューオーリンズには幽霊のエピソードが多く、「ゴーストツアー」も盛んだ。

 そんなニューオーリンズのなかでも、とりわけ有名な心霊スポットだといえるのは、ロイヤル・ストリートにある、マダム・ラローリーの邸宅。1830年代、ラローリーは屋根裏部屋にて、数多くの黒人奴隷を残忍な方法で拷問、虐殺し、死体を隠すという大事件を起こして逃亡している。この事件は、まだ奴隷制が認められていた当時ですら大きな衝撃を与えることになり、その現場となった建物に“いわく”を与えることになったのだ。ちなみに、一時期この邸宅は、俳優のニコラス・ケイジが所有していたこともあったという。

 このように、ニューオーリンズのようなアメリカ南部の土地では長い間、有色人種、とりわけアフリカ系の人々が、幽霊の襲撃などよりもはるかに恐ろしい、現実における生命の危機にさらされてきたのである。だからこそ、そこには加害者たちによる“罪の記憶”と、被害者たちによる“怒りの記憶”が渦巻いている。幽霊話が人々に語り継がれる背景には、こういった土地に染み込んだ人々の怒りや、後ろめたい感情が影響しているものと思われるのである。

 ジャスティン・シミエン監督は、過去に撮ったホラー映画『バッド・ヘアー』(2020年)にて、アフリカ系の女性が生まれたままの髪の毛でキャリアアップできないという、周囲の価値観の圧力に苛まれる状況を、超常的な恐怖演出を交えながら描いていたり、アイビーリーグの大学で人種差別が残る状況を、コメディドラマ『親愛なる白人様』として映し出している。

 人種差別の問題をジャンル作品に託して描くケースが近年増えてきたように、ジャスティン・シミエン監督に託された本作もまた、同様の意図が込められているはずである。群像劇のなかで、主人公としての視点が与えられているベンや、屋敷を購入して被害を受ける当事者の役が有色人種の役柄なのは、本作がニューオーリンズの幽霊話を描くうえで必要なキャスティングだったのではないか。

 同時に、本作はあくまでディズニーのアトラクションの映画化であることも確かなことだ。アメリカの負の歴史や犯罪を観客に目の当たりにさせるという性質の作品ではない。だからジャレッド・レトが演じる、絶大な力を持つゴーストが、屋敷の幽霊たちの権利を奪い不当に使役している構図というのは、どの立場の人々にもあてはまるものとして提出されている。しかしそこに、黒人奴隷に対する暴力や人種差別の歴史の要素を潜ませていることは、複数の状況から類推できる。

 そういった要素が暗示にとどまっていることで、とくにアメリカ以外では本作に含まれた歴史的背景に気づかない観客は少なくないかもしれない。しかし本作は、それがはっきりと描かれていなくとも、ベンが悪のゴーストを地獄へと叩き落とす場面や、その後に訪れる、人間たちや幽霊たちの人種的な融和の描写に、必然的な理由を与えていると考えられる。そして、そこに単なる勧善懲悪やお仕着せのハッピーエンド以上の説得力を生んでいるといえるのではないだろうか。

 本作『ホーンテッドマンション』は、そういった意味で、オリジナルの「ホーンテッドマンション」に付与されていた要素を解体し、アメリカ南部の記憶と未来への理想を意図して組み上げることで、より味わいのある新しい作品へと昇華するとになったといえるだろう。

参照

※ https://thewaltdisneycompany.com/from-disney-parks-cast-member-to-director-justin-simiens-haunted-mansion-journey/

■公開情報
『ホーンテッドマンション』
全国公開中
監督:ジャスティン・シミエン
出演:ロザリオ・ドーソン、オーウェン・ウィルソン、ティファニー・ハディッシュ、ラキース・スタンフィールド、ダニー・デヴィート、ジャレッド・レト、ジェイミー・リー・カーティス
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
オリジナル・サウンドトラック:ウォルト・ディズニー・レコード
原題:Haunted Mansion
©2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

関連記事