『ハヤブサ消防団』『ばらかもん』“外様”視点のドラマが流行? 海と山で描かれ方に違いも

「太郎くん、和尚も“外様”なんや」

 これは、ドラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)第6話で登場した台詞だ。江戸時代、将軍から1万石以上の領地を与えられた武家のうち、関ヶ原の戦い以前から徳川家に従う武家を「譜代大名」、関ヶ原の戦い以降に徳川家に従った武家を「外様大名」と呼んだ。そこから転じて、現代で「あの人は“外様”だ」というとき、それは既存のコミュニティに後から参加した人、つまりは“よそ者”を意味する。本作を筆頭に、2023年7月クールはこの“外様”の目線が組み込まれたドラマが多い。そこでは外からやって来た人の一歩引いた視点から見る各コミュニティの魅力、あるいは異様さが強調されている。

 『ばらかもん』(フジテレビ系)は長崎県の五島列島が舞台。その1つである福江島を中心にロケ撮影が行われており、四方を海に囲まれた美しく壮大な景色がお茶の間に癒しを与えてくれている。さらに魅力的なのが、肩の力がふっと抜けるような五島の人たちの穏やかな暮らしぶりだろう。主人公の清舟(杉野遥亮)は、ある挫折をきっかけに五島で一人暮らしを始める、都会生まれ都会育ちの書道家だ。書道界の家元の後継ぎとして結果を出さねばというプレッシャーに加え、繊細で人付き合いが苦手な元来の性格も相まって、幼い頃からただひたすら書と向き合ってきた清舟。そんな彼の内に向いている意識を外側に向け、広い世界を見せてくれるのが五島の人々である。

『ばらかもん』は黒歴史という“呪縛”を解き放つ なるが紙飛行機に変えた“しがらみ”

五島に住まう半田清舟(杉野遥亮)の元にライバルが訪れた『ばらかもん』(フジテレビ系)第3話。マネージャーの川藤(中尾明慶)が、書…

 開放的で古来より異文化と共存してきた土地が育んできたのか。彼らはよそ者の清舟をよそ者扱いせず、コミュニティの一員として受け入れる。その大らかな人間性がよく表れていたのが、餅拾い名人“ヤスば”(鷲尾真知子)の「どうぞお先に」の精神だ。書道展で大賞を逃したことと、餅が一つも拾えない状況を重ね合わせ、「俺よりうまいやつがいてどうしても餅を拾えなかったらどうすればいいか」と質問する清舟に、ヤスばは「そん時はな、どうぞお先に。譲ってやって、もっと大きな餅ば狙え」と応える。悲観するでも諦めるでもなく、その場は相手に譲って、自分のペースで前に進み続ける。そんな、都会の喧騒から離れて暮らす人たちならではの気張らない感性や生き様に気づかされることは非常に多い。

『真夏のシンデレラ』は“令和のトレンディドラマ” 夏に月9で観たかったものがここに

ここ最近すっかり王道ジャンル(医療、リーガル、刑事、ミステリー)に特化していた月9で、このタイプのドラマが放送されるのは何年ぶり…

 一方で、開放的なムードもありつつ、ある種の閉鎖性を感じさせるのが同じく海沿いを舞台にした『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)だ。本作は海辺の街で共に育ってきたヒロインの夏海(森七菜)とその女友達が、都会育ちの優秀な男性たちと恋に落ちる群像劇。彼らの恋が進展する中でやたらと「住む世界が違う」ことが強調されている本作だが、舞台となっている場所は地方といえども、都心からさほど離れていない。江ノ島や湘南のように、比較的東京と行き来しやすく、海水浴シーズンには多くの観光客が訪れる場所に設定されているようだ。

 そのため、そこで暮らす人たちによそ者を排除するような雰囲気はないものの、どこか都会の人間とは一線を引いた感じで作中では描かれている。自分たちの街を愛しながらも、何もない田舎と卑下する節があり(江ノ島や湘南をイメージしているのなら、十分都会だが)、義理人情に溢れているが、それが時に裏目に出ることも。例えば、夏海の父・亮(山口智充)が、娘が使うはずのお金を友人の入院費に当ててしまったこともあった。夏海も父の行動を咎めることなく、人助けとして受け入れながらも無理している部分がある。そんな街の良し悪しを冷静に捉えるのが、都会から来た健人(間宮祥太朗)だ。健人は海辺の街を気に入りつつ、夏海を様々な呪縛から解き放つ存在。もし2人が結ばれた場合、どこに生活の基盤を置くのかが問題になりそうだ。

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