『らんまん』渋谷謙人の“再登場”での変化に期待 “個”よりも“全体”の主張を優先する演技

 朝ドラ『らんまん』(NHK総合)の第21週「ノジギク」は、主人公・槙野万太郎(神木隆之介)に多大な影響を与えてきた田邊(要潤)の訃報からはじまり、槙野家の家計と万太郎の植物研究を支えるため妻の寿恵子(浜辺美波)は料亭で働くことになったりと、またも波乱の展開が続く内容だった。しかし、第22週ではいろいろと好転するようである。特に、渋谷謙人の登場には注目だろう。

 第22週「オーギョーチ」の予告では、田邊の後任としてドイツ留学から帰ってきた徳永政市(田中哲司)が東京大学植物学教室の教授に就任し、田邊の命により出入りを禁じられていた万太郎が再び迎え入れられる様子が収められていた。これまで長いこと自力で植物研究を続けてきた万太郎にとって、最高学府での研究を許可されることはまさしく人生の好転といえるだろう。そしてそこに、渋谷の姿があった。

 彼が演じるのは細田晃助。冒頭に「渋谷謙人の登場には注目だろう」と記したが、正確には「渋谷謙人の“再登場”には注目だろう」である。そう、細田はもともとこの植物学教室に出入りしていた人物なのだ。ところが、物語が進展するうちにいつの間にか姿を消していた。番組公式サイトの人物紹介欄にも「東京大学 植物学科 4年生」としか記されていない。

 正直なところ、学生のうちの一人なのだという程度の認識しかなく、渋谷の出演が記憶にない視聴者の方もいるのではないだろうか。彼が演じる細田は物語に何かしらの影響を与えるようなキャラクターではなく、渋谷は完全に学生のうちの一人に溶け込んでいた。言い方を変えるならば、万太郎の過ごす環境づくりに徹していたわけだ。

 こうした、“個”よりも“全体”の主張を優先するための演技に徹せられる俳優は、すごいなといつも思う。そこで重要視されるのは個々の俳優の正確なポジション取りと、安定したチームワーク。目立とうという意識があるのか何なのか、異なるトーンの演技を展開する俳優が一人でもいれば、途端にチームは崩壊する。物語が描かれるうえでもっとも大切な環境が崩れ、やがてそれは作品全体への印象にも影響を及ぼすことになる。これらのことが『らんまん』の現場でどれくらい共有されているのかは分からないが、誰もが丁寧にチームプレイを実践しているようである。

関連記事