「みるアジア」代表に聞くアジアドラマの魅力と可能性 心を揺さぶる“KTS”要素がカギに?

心を揺さぶる要素、“KTS”とは?

『偽装者』©Daylight Entertainment CO.,LTD

ーー最近、動画配信サービスだけではなく、BSやCSのチャンネルをつけると、アジアドラマを放送しています。日本におけるアジアドラマの需要と今後の可能性をどう分析していますか?

成:需要という点では、作品数もふんだんにあり、クオリティも非常に高い韓国と中国のドラマが市場をけん引していくと思います。しかし、市場がさらに拡大するにはきっかけや大きなインパクトが必要で、そこにはスターの存在が欠かせません。各国から『冬ソナ』ブーム時のペ・ヨンジュンのようなスターが現れると、その国の作品がトータルで盛り上がっていく。こんなふうに言うとファンに怒られてしまいますが、私はペ・ヨンジュンやイ・ビョンホンのルックスには胸がときめきません(笑)。でも『冬ソナ』のペ・ヨンジュンを見ると、私も含め多くの人が惚れてしまう。韓国ドラマのすごいところって、出演する俳優がスターになる作品が作られること。ある有名な脚本家にお話を聞いた時、「私が書いた通りに監督は撮ってくれればいいし、俳優は演じてくれればいい。そうすれば成功します」と言われたんです。この人、すごいなと思いました。日本の場合は違っていて、「この俳優が出演するから、この人に合う脚本を書いて……」となりますよね。アプローチが逆なんだな、と。

ーーアジアドラマといっても国によって違いはあると思いますが、あらためてその魅力をどのように分析されていますか?

成:これは社内でもよく議論になるのですが、大前提としてまず“完璧な王子様の存在”です。イケメンで、優しくて、金持ちで、女性の扱いも上手くて……という、絵に描いたような白馬の王子様がいる。ドラマによってはタイプの違う王子様が複数人いるので、視聴者はヒロイン同様に両手に花(?)状態を味わえます。さらに、“脚本が優れている”こと。起承転結の流れ、人間関係の繋げ方、愛と嫉妬の底なしの連鎖などが大きな魅力です。それから、“心地いい非現実感”があること。例えば「愛している」「君さえいれば何もいらない」など日本語で聞くとキザだなと思ってしまう愛のセリフも、異国の言語だと素直に受け止められ、ドキドキ&キュンとさせられます。同じアジア系の顔立ちの俳優たちが日本語以外の言語で話していることもポイントだと思います。その掛け合わせによって全てが程よいファンタジーに仕上がっている。そういったアジアドラマに対し、うちの社員は「心を揺さぶる要素、“KTS”が満載」だと言うんです。

『トッケビ ~君がくれた愛しい日々~』©STUDIO DRAGON CORPORATION

ーーKTSとは?

成: Kは家族、Tはときめき、Sは切なさ。

ーー社員さんの造語ですか(笑)?

成:私も「何だろう?」と思ってChatGPTでも調べたんですけど、造語でした(笑)。アジアドラマ共通だと思うのですが、日本のドラマと違う点が、恋愛に家族が絡んでくること。あの家族の濃密さ、しがらみ、ウザさは日本にはない。さらに、「ときめき」と「切なさ」が詰まった展開の繰り返しで、「早く続きが観たい!」と思わせられる。話数が長いこともあって深くハマれるし、このKTSの要素が日本のドラマよりもはるかに多いのではないかと思います。

ーーアジアドラマの魅力を体現していると感じる、具体的なタイトルは?

成:弊社の配給作品では、やっぱり『トッケビ ~君がくれた愛しい日々~』ですね。脚本、映像、音楽、俳優、演技、全てがとにかくハイレベル。それらの要素が融合し、奇跡的なケミストリー(化学反応)を実現した作品だと思います。人間関係の濃さで言うと『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』など、キリがありません。

『トッケビ ~君がくれた愛しい日々~』©STUDIO DRAGON CORPORATION

ーー「みるアジア」の特徴についてうかがいます。作品選びやサービスにおいてのこだわりを教えてください

成:やはり魅力的な作品が第一なので、常に評価の高い作品を探しています。たとえば中国なら大手SNSサイト「豆瓣(douban)」をはじめ、各所口コミサイトの評価の高いものをチェックします。そして、それが日本にマッチするかどうかは最終的に私たちが観て判断しています。世間の口コミ評価もあくまでも1つの基準にすぎません。「豆瓣」でも、すごく評価の高い作品は、もしかしたら出演俳優のファンが団結して投稿するこことで評価を上げている可能性もあるので。次のこだわりは、字幕です。1つは「まるわかり字幕」といって、もともと当社のDVDにだけ収録していたスペシャル特典でして、この字幕がお客様に大変好評であったため「みるアジア」でも提供することで差別化を図ることにしました。字幕というのは、基本ルールでは字数制限があるため、原語の意味を要約して翻訳しなければいけませんが、作品を愛するファンのなかには、登場人物が何を喋っているのか一言一句知りたいという方がたくさんいらっしゃる。それなら、できる限りセリフに忠実に訳してみよう、ということで始めたサービスです。

『鎮魂』©Youku information technology (Beijing) Co., Ltd.
『鎮魂』©Youku information technology (Beijing) Co., Ltd.

ーー字幕翻訳者が納品する字幕は、既に字数制限数に合わせて整えられたものですよね。ということは、新たに最初から翻訳されているのですか?

成:そうです。大変なので、やらなきゃよかったなとしょっちゅう後悔しています(笑)。元の字幕につけ加えたり、前後を入れ替えたりということもやりますが、基本的には翻訳をやり直しています。この「まるわかり字幕」は語学学習者が好むというよりも、たとえば熱心なファンがいる中国ドラマ『鎮魂』など、作品のファンの方に圧倒的に喜ばれています。「みるアジア」の面白い特徴が、会員数の約2割が常時視聴しているんですよ。これは非常に高い数字で、通常は数パーセントにも達しないんです。そのぐらい、作品なり字幕なりにハマって見ておられる方が多いのかなと思います。

『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』©STUDIO DRAGON CORPORATION

ーーファンの皆さんは、小説を楽しむような感覚で字幕を読んでいらっしゃるのですね。

成:それが「まるわかり字幕」の面白いところです。先ほどの『トッケビ』も「まるわかり字幕」のおかげで、通常字幕では味わえないドラマのニュアンスを堪能することができます。もう1つ字幕でこだわっているのが、韓国と中国のドラマに関しては、なるべく原語の字幕も入れるようにしていて、日本語と中国語、日本語と韓国語の両方を同時に出せる「二か国語字幕」という機能を設けています。これはおそらく世界で初の試みではないかと。特に韓国語や中国語を学習している方には大変喜ばれています。ドラマを観ているだけで語学習得もできてしまうかもしれません(笑)。さらにフォントにもこだわっています。日本語の一般的なフォントには無い難しい漢字もすべて字幕に反映させたかったので、大手フォントメーカーにお願いして「みるアジア」用のオリジナルフォントを約1年かけて作っていただきました。最後のこだわりとしては、過去の名作は独自にデジタルリマスターをして映像をきれいにして配信しています。美しさが圧倒的に違うので、ぜひ他社サイトと見比べてみてほしいですね。いまの若い方には、母親世代がかつて夢中になった韓国ドラマ往年の名作『パリの恋人』デジタルリマスター版を観ていただき、母娘ともにパク・シニャンにハマってもらいたいです。これからも名作はどんどん配信していく予定です。

リクエストから配信を決めた『緑島金魂』『偽装者』

『緑島金魂』©Taiwan mobile Eightgeman ltd.

ーー最近はタイのBLドラマも話題ですが、フィリピンなど他の東南アジアのドラマも面白いと聞くので、日本でも紹介されるようになればいいなと期待しています。可能性としてはいかがですか?

成:BLドラマはやはりタイが圧倒的に良作が多いので作品を増やしています。他のアジア諸国でも時代の流れでBLドラマは製作されはじめているのでそこはしっかり押さえていこうと思います。ところでBLではないですが、フィリピンで大ヒットしたとても面白い愛憎劇があって、社内でも好評だったので配信を準備しています。新たな試みとしてはインドドラマです。最近インド映画『RRR』が日本でも大ヒットしましたが、「みるアジア」ではインドドラマも扱っています。『アショーカ王』は、初めてインドの統一王国を作ったアショーカ王を題材にした作品です。インドの映画はいろんな配信会社が扱っていますが、ドラマを扱っているところはまだないと思います。

『アショーカ王』

ーー視聴者からの作品リクエストページも設けていらっしゃいますね。要望にはどんな傾向がありますか?

成:自分が推している俳優さんが出ている作品と、「本国の人に面白いと薦められたので観てみたい」という2つのケースが多いです。たとえば台湾ドラマの『緑島金魂』や、中国のスパイドラマ『偽装者』はリクエストが多かったので配信を決めました。リクエストページがあることによって、お客様がリアルに観たいと思っている作品を知ることができますし、そしてリクエストが実現することでお客様それぞれに「みるアジア」に“参加”している気持ちになってもらえたらとても嬉しいなと思います。

ーー最後に今後の展望を教えてください。

成:現在は厳選した作品を全部で約300タイトル配信しているのですが、中国ドラマを中心にもっと増やして、2023年内には500タイトルくらいにしていきたいです。先ほども、各国の面白い作品も掘り起こしているとお話しましたが、今、準備中なのが、第一次世界大戦中の二重スパイを描いた『マタ・ハリ』というドラマ。この作品、製作がロシアとウクライナの合作なんですよ。興味深いなと思い、実際に観てみたらこれがまた面白い。他の配信サービスでは、アジアの映画はいろいろ扱っているけれど、ドラマは中国と韓国がメインで、その他の国のドラマはほとんど扱っていない。こういうところでも大手と差別化を図っていきたいなと考えています。他の大手さんと比べるとサーバーなどでまだまだ不安定なところがあり日々改良を重ねていますが、加入者の方々から「みるアジア」の独占配信にはハズレがない」とお褒めの言葉をいただけていることが励みになっています。これからも作品を通して視聴者の皆さまの人生に少しでも潤いを与えられる存在になれるように、良作を配信していきたいと思います。

■サービス情報
「みるアジア」
韓国・中国・タイBLといったアジアドラマの配給、VIDEO発売業務を手掛ける株式会社コンテンツセブンが運営する動画配信サービス。世界の名作ドラマを語学学習者にもおすすめの二か国語字幕(日本語+原語同時表示のオリジナル字幕)など、独自の字幕で配信している。
https://www.miruasia.com/

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