明治・大正を舞台とした作品なぜ増加? 『アンファル』『わた婚』『るろ剣』から考える
『アンデッドガール・マーダーファルス』『わたしの幸せな結婚』『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』ーーこれらのタイトルは、全て2023年7月より放送している夏アニメだ。
『アンデッドガール・マーダーファルス』は、第22回鮎川哲也賞を受賞した青崎有吾による同名小説をアニメ化したミステリー作品である。鬼や吸血鬼、人狼など、異形な存在が異能力バトルを繰り広げながらヒロインの“体”を取り戻すためにヨーロッパを巡っていく。
『わたしの幸せな結婚』は、シリーズ累計発行部数700万部を突破した同名小説をアニメ化した作品である。高坂りとによるコミカライズが「全国書店員が選んだおすすめコミック2021」で1位を獲得したほか、Snow Manの目黒連と今田美桜を起用した実写映画化が話題となったことも記憶に新しい。アニメ化だけでなく、メディアミックス的にも成功している作品だといえるだろう。
『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』は、1994年から1999年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載された同名の漫画が原作で、シリーズ累計は7200万部を突破している。1996年に初めてテレビアニメ化され、のちに主人公・緋村剣心役に佐藤健を起用した実写映画も制作された。今回放送されている新作アニメは、最新の技術を用いて原作を再構築したものであり、制作陣だけでなくキャストも一新されている。
一見するとジャンルも作風も様々に思える3作品だが、これらの作品は、明治・大正という限られた時代をモチーフに設定している点において共通している。『わたしの幸せな結婚』は架空の時代だとされているが、EDクレジットの「協力」欄に江戸東京博物館の名前が確認できるように、服装や建物から、明らかに明治・大正のモチーフが取り入れられていることがわかる。第5シーズンが2023年夏アニメにあたる『文豪ストレイドッグス』も、現代という設定ではあるものの、キャラクターのモチーフとなったのが明治以降の文豪のため、仮名遣いや演出がその時代を思わせる。
以上を前提として、本稿では主に2023年夏アニメに共通する時代背景を注視して、なぜ明治・大正が舞台となりやすいのかを分析する。
時代設定に関しては、大正期を舞台とした『鬼滅の刃』の大ヒットや、Z世代の間でレトロなものが流行していることなど、シンプルに注目を集めやすいという理由がまず思い当たる。しかし、レトロなものと言えば昭和や、平成に流行したものも再ブームになっている今、どうして明治・大正を取り上げるのか。
江戸時代や昭和の時代は、個性溢れる独特の文化が生まれた時代ではあるが、江戸時代は約265年、昭和は約64年と長きにわたって続いたために、人によって想像するイメージが異なるほか、テーマとしてまとまりづらい。一方で、明治は約45年、大正はさらに短い約15年間であり、ともに「文明開化」という一つのイメージに集約されている。モチーフとして扱う際、この共通のイメージがあると、作品に投影しやすく、観客としても受け取りやすいのではないだろうか。