『呪術廻戦』「渋谷事変」鑑賞前に“思い出しておきたいこと” 凄惨な物語への心構え
アニメ『呪術廻戦』第2期、「懐玉・玉折」と閑話エピソードを経ていよいよ8月31日から「渋谷事変」の放送が開始される。本誌で「渋谷事変」が連載されていた時、いつかアニメ化に際してこれを映像として観る日が来るのかと思っていたが、いざ目の前に迫るとテレビの前に座って観るだけだというのに、足がすくんでしまうものだ。原作では約1年3カ月という連載期間、単行本では10巻から16巻にまたぐ大きな章となるが、果たしてどこまで今期で映像化されるのかわからない。ただ一つだけわかるとしたら、未だかつてないアクションと想像を絶する悲劇が描かれる、ということだ。
放送を直前に控えた今、改めてアニメ版「渋谷事変」への“心構え”としていくつかの重要なポイントや本章の見どころをおさらいしたい。なお、できる限りネタバレは避けるつもりだが「一切何の情報も入れずに観たい」という方はご注意を。
“死んだはず”の夏油傑
先日まで放送されていた「懐玉・玉折」を観れば、村で大虐殺を起こした高専3年生の夏油傑が呪術規定9条(非術師の保護)に抵触したことで呪詛師として認定、 “処刑対象”とされていたことがわかる。指名手配犯となった夏油はそれから約10年間の間、呪術師に見つからないように身を潜めていた。そして『劇場版 呪術廻戦 0』でも観たように新宿と京都の2カ所で未曾有の呪術テロを起こし、最終的に高専敷地内で親友の五条悟によって“処刑”された。
単行本では「最期くらい呪いの言葉を吐けよ」と夏油が言う次のコマで、その様子は見せずに「バシュッ」という音が綴られている。劇場版の映像でも、この音は小さいが確かに入っていた。これによって夏油が絶命したのは明白なのだが、そこで気味が悪くなってくるのが時系列的にはその後の出来事として描かれたアニメ第1期に平然と夏油が登場していたことである。しかも、その額にあるのは何やら見慣れない傷。実は生きていたのか、死んだのであれば“あれ”は何なのか。その正体がついに「渋谷事変」で明かされる。
第1期で呪霊と夏油が話し合っていた“計画”
さて、そんな“夏油”と呪霊たちが初登場したのが第1期のファミレスに向かうシーン。ここで少年院の特級呪霊が彼らの仕掛けたものであることが明かされた。その目的は、宿儺の実力を測るため。そして呪霊の漏瑚はもう2体の呪霊(花御と陀艮)の代わりに“夏油”にとある相談をする。それは彼らのボス……後に登場する“人が人を憎み恐れた腹から生まれた呪霊”の真人が「今の人間と呪いの立場を逆転させたい」と考えていること、そうするためにどうすべきかということだった。
「人間はウソでできている。表に出る正の感情や行動には必ず裏がある。だが負の感情、憎悪や殺意などは偽りのない真実だ」
そう語る漏瑚は、そこから生まれ落ちた呪いこそ真の純粋な“人間”であり偽物(人間)は消えて然るべき、という考えを明かす。これこそが、呪霊たちにとってテロを起こす大きな動機である。再び呪いの時代にすること。しかし、そこで彼らの弊害となってくるのが五条の存在だ。彼は強すぎるし、彼ら呪霊の実力では太刀打ちができない。その差は初めて目隠しの下からご尊顔が披露された第7話でも歴然としている。呪霊の中でもかなり強い、宿儺の指7、8本レベルの漏瑚が五条と手合わせしても、まるで大人が赤子の手首を捻るようだった。そこで、“夏油”は彼らに二つの提案をする。一つは“五条悟の封印”、そしてもう一つは“両面宿儺を仲間に引き入れること”である。
目的の一つ目、殺すには大変すぎる五条を封印するために必要な忌みもの、特級呪物・獄門疆(ごくもんきょう)。それを“夏油”はすでに手にしていた。極めて珍しいものであることは漏瑚が持っていることに興奮したことでもわかる。彼はそれをコレクションにしたいから、使わずに済むために五条を殺そうとしたのだ。しかしこれが失敗に終わり、彼らにとってアドバンテージのある環境で彼を封印することに決める。その決行日が10月31日、場所が渋谷というわけだ。
そしてもう一つの目的、宿儺を仲間に入れることに関しては「指をすべて集め、献上」することで交渉しようと考えていた。これに関してはテロの過程で真人や漏瑚らは“自らが祓われたとしても”、呪いの王・宿儺を解放することによって呪いが人として立つ時代がくればそれで良いと思っている。繰り返しになるが、彼らの動機はあくまで呪いの時代を再びもたらすことであり、漏瑚が「100年後の荒野で笑うのはわしである必要はない」と覚悟を決めているのも何だかかっこよく思えてしまうのだから、少しズルい。“五条封印作戦”を軸として進められる“宿儺作戦”のために、高専が保有する6本の宿儺の指を盗んだ事件が「京都姉妹校交流会」編であった。しかも、その際に彼らが呪霊同士だけで徒党を組んでいるだけでなく、複数の呪詛師とも手を組んでいることも明かされている。この辺の事実を、「渋谷事変」を観るうえで頭においておくと物語が追いやすいだろう。
しかし、これまた気味が悪いのは、呪霊側のテロの動機が十分に説明されていたのに対し、そもそもテロの発起人が彼らではなく“夏油”だったこと。彼はあくまで彼らから相談を受け、そこから協力関係になっただけで、常に一歩身をひいたところに自分を位置付けていた。それなのに真人に「渋谷事変」の決行日と場所を指定したのは、他でもない“夏油”なのだ。少なくとも、珍しい呪物・獄門疆をすでに手にしていることから、彼の狙いが間違いなく“五条悟の封印”であること、そこに呪霊たちとの利害の一致があったことはわかる。しかし、誰も彼の真の目的をこの時点で知らないのが不気味なのである。