奇妙な惑星の日常を描くアニメシリーズ 『ストレンジ・プラネット』が掲示するメッセージ

 アニメ『ストレンジ・プラネット』の配信が開始されている。WEBコミックが書籍化され、ベストセラーとなった同名作品の原作者ネイサン・W・パイルと、『リック・アンド・モーティ』原作ダン・ハーモンが共同製作した、1話完結のシリーズである。

 舞台となるのは、われわれの住む地球にそっくりの不思議な惑星。そこに住んで文化的な生活を営む「ビーイング」と呼ばれる青色の異星人たちが登場人物だ。ビーイングたちは、飲食店の経営をしたり、恋をしたり、猫をかわいがったり、バンドの追っかけをして各地を回ったりなど、それぞれが人間そのもののような行動をしている。本シリーズでは、4コマだった原作の世界観をスケールアップさせ、より精細で広がりのある表現が達成されている。

 ここでは、そんな奇妙な惑星の日常を映し出す本シリーズが、何を描いているのか、何が背景となって生まれているのかを考えていきたい。

 異星人ビーイングたちが人間のように見えるのは当たり前で、ネイサン・W・パイルによる原作漫画は、まさに人間の営みを表面上、異星人に置き換えて表現していた内容なのだ。この原作はまた、チャールズ・M・シュルツの『ピーナッツ』(スヌーピーが登場する漫画作品)を想起させられるものがある。というのは、どちらの作品も、かわいらしいキャラクターたちの心の声や会話を通して、日常の不安や人生の課題などの重い内容を描いているという共通点を持っているのである。これらの漫画では、人生についての課題を、大人びた考え方をする子どもたちや、青い異星人に悩ませていることで、より俯瞰的に、また分析的に読者に考えさせる効果を出しているようにも思われる。

 このような内容をアニメ化した本作は、やはり『ピーナッツ』のように、内省的な考え方をしてしまう人々(ビーイングたち)の心情が、原作漫画を膨らませるかたちで描かれていく。エピソード1「飛行機」では、同じバンドが好きなパートナーと、バンド崩壊に合わせて離れてしまったことで思い悩むビーイング。エピソード2「アライグマ」では、仕事を完璧にこなせないことに葛藤を感じる真面目なビーイング。そしてエピソード3「ケアフル・ナウ」では、傷心の出来事を新しい状況に対処することによって乗り越えるビーイングらが登場する。

 このような、うじうじとした個人の感情を描いた内容が、アニメ化されるほどの共感を集めたというのは、世の中にはネガティブな感情に囚われて、数々の事柄について考え込んでしまうような、「ダウナー」と呼ばれるタイプが少なくないからだろう。ちなみに日本では、これを「陽キャ」(陽気なキャラクター)に対する、「隠キャ」と呼ぶ向きが定着している。アニメの主人公といえば、元気いっぱいで、少々の試練にはへこたれないポジティブなキャラクター、つまり陽キャが選ばれる場合が多いイメージがあるが、本作はなかなかそう考えられない繊細なタイプの人に寄り添うような物語や、感情描写が用意されているのである。

 とくに近年、『ボージャック・ホースマン』や『ビーとパピーキャット』など、アメリカではこのような、どちらかといえば“ダウナー”向けのアニメーション作品が増えてきている印象がある。よく考えてみれば、コアなアニメーション好きの視聴者には、むしろこちらのタイプの方が多いのではないか。そう考えれば、ダウナー系が作品のキャラクターの感情に、これまでよりも寄り添うことのできる時代が到来したのではないかと思える。こういった繊細な感覚が支持され、SNSで『ストレンジ・プラネット』原作漫画を“バズらせた”というのも、ダウナーの市民権が確立されてきた向きがあるからだろう。

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