『カールじいさんの空飛ぶ家』魅力的な4人のキャラクターを解説 切なく胸に迫る冒頭10分

 2009年に公開されたピクサー・アニメーション・スタジオ作品『カールじいさんの空飛ぶ家』は、同スタジオの長編10作目にして、高い評価を受けた作品だ。ピクサー作品は平均的に高く評価されつづけているが、本作はアニメーション映画として初めて第62回カンヌ国際映画祭でオープニング作品として上映され、第67回ゴールデングローブ賞でアニメ映画賞と作曲賞を受賞。第37回アニー賞では長編アニメーション賞と監督賞を獲得。そして第82回アカデミー賞では、アニメーション映画として1991年の『美女と野獣』以来2作目の作品賞ノミネートを果たすなど、賞レースでも存在感を示し、ほかの作品とは一線を画した名作だ。

 本作の名作たる所以は、ピクサーならではの美しい映像と巧みなストーリーテリングはもちろん、魅力的なキャラクターたちにもある。本稿では、そんなキャラクターたちの魅力を掘り下げていきたい。

亡き妻のために冒険に繰り出すカールじいさん

 本作の主人公、カールじいさんことカール・フレドリクセンは、愛妻エリーの死から立ち直れず、彼女との思い出の詰まった家に固執していた。2人の出会いから別れまでを描く冒頭10分で、泣かされた人も多いに違いない。無口ながら冒険家にあこがれるカール少年は、同じく冒険家を夢見る活発な少女エリーに出会う。ふたりはともに歳を重ね、結婚し、子供には恵まれなかったものの、仲睦まじく暮らしてきた。彼にとって、エリーは人生そのものだったことがうかがえる。

 彼女の死後、街の開発計画によって立ち退かざるをえなくなったカールじいさんは、大量の風船を家に結びつけ、エリーといつか行こうと約束していた南米の「パラダイスの滝」へと家ごと旅立つ。幼い頃エリーが描いた絵のとおりに美しく壁が塗り分けられた家が、色とりどりの風船に持ち上げられて大空へと飛び立っていく映像は、これから始まる冒険への期待を高める。それと同時に、つらい現実から離れ、それまで以上にエリーとの思い出に浸る、文字通り地に足の着かない彼の心情を表してもいるようだ。

 なかばヤケクソで、夫婦の夢を叶えることを決意したカールじいさんは、それ以外のことはなにも考えずに旅をつづける……はずだった。しかしボーイスカウトの少年ラッセルや犬のダグと出会い、彼は再び他者と関わりを持たざるをえなくなる。そして物語が進むにつれ、頑固者と思われていた彼の本来の優しさが顔を出す。ラッセルがピンチに陥るなか彼は大きな決断をし、目の前の他者のために行動した。こうして過去を乗り越えた彼は、その後、新たな冒険を始めることになる。

自己中な理由で冒険についてきたラッセル

 カールじいさんの心を開いたボーイスカウトの少年ラッセルは、当初は自分のことしか考えていなかったと言っていいだろう。彼は「お年寄りのお手伝いバッジ」を手に入れ、自然探検隊の上級隊員に昇格するためにカールじいさんにつきまとっていた。しかし彼と本物の冒険をともにするにつれ、他者のために行動することを学んでいく。伝説の怪鳥とされるケヴィンを守るため、カールじいさんを助けるために、彼は冒険で学んだ技術と知識を駆使し、勇気のある行動を見せるようになるのだ。

 実はラッセルは父親の関心をひくために自然探検隊の活動に力を入れており、そんな子供らしくいじらしい姿も魅力的だ。エリーとの間に子供をあきらめたカールじいさんにとって、彼は大きな存在となったに違いない。

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