森田成一×杉山紀彰、『BLEACH』は「鏡花水月のよう」 一護と雨竜の“10年”の変化を語る

 TVアニメ『BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-』がテレビ東京系列ほかにて放送されている。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載され、シリーズ累計で1億3000万部を超える発行部数を誇る久保帯人の人気漫画『BLEACH』の完結までを描く『BLEACH 千年血戦篇』の第2クールとなる本作。護廷十三隊と星十字騎士団(シュテルンリッター)による戦いが激しさを増す中で、主人公の黒崎一護と彼の友人で共に戦ってきた石田雨竜が、各々自身の運命と向き合うことになる。

 一護役の森田成一と雨竜役の杉山紀彰に、役に対する思いや、「訣別譚」と副題が付けられた第2クールの見どころ、そして世界中で支持され続ける『BLEACH』という作品の魅力を聞いた。

森田「戦いはただ前に前にと剣を振るって突き進むだけではない」

ーー2022年10月から2022年12月まで放送された『BLEACH 千年血戦篇』は、2012年にTVアニメ『BLEACH』の放送が終わってから、実に10年ぶりのシリーズ再開となりました。お二方は黒崎一護や石田雨竜という役にすんなりと入っていけましたか?

森田成一(以下、森田):TVアニメのシリーズが終了してからも、ゲームの『BLEACH Brave Souls』で黒崎一護を続けていたので役から離れることがなく、演じる上で懐かしさのようなものはなかったですね。ただ、ゲームの収録時はずっと1人で喋っていたのですが、TVアニメの収録では会話劇になって、新しいキャラクターも登場してきたこともあり気持ちに違いは出ました。また、自分自身も時間を経て変わっていったので、一護へのアプローチの仕方も変わりました。

ーーどのように変わったのですか?

森田:精神的なものが大きいですね。前よりも何となく落ち着いた感じが生まれてきましたし、声の感じも少し変えました。前のシリーズの時には出せなかった音域の成分を入れるようにしています。今までのイメージと合致しながらも厚みを持つように演じ方を変えたので、それが良い形にできたなと思います。

ーー10年という年月はベテランの方にもさらなる変化を促すものなのですね。

森田:自分自身が歳をとったのでできるようになったところがあります。昔よりも声をコントロールすることもできるようになりました。

ーー杉山さんはいかがですか?

杉山紀彰(以下、杉山):森田さんと同じで、TVアニメのシリーズが終わってからも、ゲームなどでちょこちょこと『BLEACH』という作品であったり、石田雨竜というキャラクターに触れさせていただいていたので、ものすごく開いてしまったという印象はありませんでした。ゲームの収録の時に、もう少ししたら新シリーズが始まるかもしれないという話を聞いていましたし、森田さんと収録現場ですれ違う時に、またやるらしいよという話をして気になっていました。だから、改めてお話を聞いた時も、「もう10年も経ったのか」という印象でした。

ーー雨竜を演じるにあたってアプローチを変えたところは?

杉山:昔は地声が高くて、雨竜のキャラクターを演じる時は落ち着いたトーンで知的なイメージを出そうとしていたところがありました。今は歳をとって地声のベースが低くなってきた感じがあるので、そのあたりを考慮して雨竜というキャラクターを演じています。無理して若作りをしなくても、自然体で演じて物語に華を添えられたらという思いで取り組んでいます。

ーー『BLEACH』のアニメ自体はスタートが2004年10月ですから、来年で20年ということになります。その当時と今とではやはり変わったところもありますか?

森田:杉山くんとは同い年で、お互いに変わっているようには感じてはいないけれど、肉体はやはり変わっているというか(笑)。

杉山:時は残酷ですね。

森田:小さい字が見えづらくなったりとか、寝ている時にトイレに1回は起きるようになったりとか……。

杉山:ははははははは。

森田:ただ、そういうものも許容できるようになったところがあります。昔は血気盛んで、前に前にと戦っていくことだけを念頭に置いて日々を暮らしていました。一護自身も戦うキャラクターだったので、そうした気持ちを乗せて演じていましたが、50歳になってそうしたもの以外のことが見えるようになりました。戦いにはただ前に前にと剣を振るって突き進むだけではない、別の戦い方がある。そういったことをこの20年の間で覚えてきました。その影響もあって、一護に向かう姿勢も変わってきたなという気がします。

森田成一、杉山紀彰

ーー杉山さんはいかがですか?

杉山:自分と世代が違うキャラクターの視点が理解しやすくなったところはありますね。ただ、演じるとなると、そうした視点はかえって難しく感じることがあります。

ーーどのような?

杉山:自分自身としては全体図を分かっていたとしても、表現する時にすべてを悟って先が分かりきっているような演技をすることは違うなと。そうしたバランスを取るところの難しさはありますね。例えば、雨竜が考えていることや感じていることを視聴者の皆さんがご覧になったときに、その時の話数なり途中経過なりがどう見えるのか、という点などがあります。すでに声を録っているシーンでも、雨竜には強い決意や意思があることを込めた口調だったり、言葉の強さだったりを意識して演じましたが、もう少し淡々と何を考えているのか分からない感じをベースにして欲しいというディレクションを頂きました。

ーーアニメを観ている人にとっても、先の展開への関心がより強く引き出される気がしますね。

杉山:一護の視点でも視聴者の視点でも、雨竜がどうしてそちらに行ってしまったのかが分からない、仲間ではなかったのか? といった驚きがあると思います。ここで雨竜なりの決意を見せてしまうと物語の見え方も変わってしまいます。

ーー逆に一護としては、雨竜との訣別が相当な驚きで捉えられることになりますね。

森田:僕自身、原作を読んでいる時に、二人がこういう運命になるとは予想だにしていなかったんです。だからショックでしたね。ひとつのチームとして共に戦ってきた仲間であり友達だった相手と、運命というものに半ば強引に引きずられ、袂を分かたなくてはならないことがショックでした。この先どうなってしまうんだろう? そんな疑問がありました。あとは恐怖だったかな。

ーー第2クールでは、そうしたショックや恐怖を持ちながら演じている感じですか?

森田:今、『訣別譚』で一護を演じていて、いったいどうなってしまうんだろうという気持ちが大きいです。そこで一護は何を考えるんだろう? 漫画を読んでいた時には考えていなかったことを、改めて役として演じるとなると、その時々の一護の気持ちの動きをリアルに感じていかなくてはなりません。そうした作業をしている時はとても不安ですね。雨竜という存在を一護としてどのように感じて向き合っていくのか。そこは今でも未知数です。演じていく中で少しずつリアルタイムに作っていければと思っています。

ーーたとえ敵に回っても、一護だったら絶対に信じているはずだといったような感じはありますか?

森田:それは大きいと思います。一護というのは護れるものならたとえ小さい範囲であっても護りたいという人間です。友達を思う気持ちも強い人間なので、袂を分かつことは信じられないのではないでしょうか。

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