『どうする家康』松本潤の変貌に驚くばかり 新たな展開を予感させる「信長を殺す」の一言
秀吉(ムロツヨシ)は家康のことが心配だと口にするが、瀬名と信康の一件をわざわざ話題にあげるあたり、心の内を探りに来たのだといえる。けれど家康は秀吉の策に乗らない。至極冷静な面持ちで「全ては我が愚かなる妻と息子の不行状ゆえ」と返した。家康の顔つきと物言いは、瀬名の死を目撃して泣き叫び、信康の死を知ってうつろな目をしていた家康とは別人だ。秀吉はそんな家康の変化にいち早く気付いたのだろう。家康を油断できない相手と見据えたのか、暗いまなざしで家康のことをただじっと見つめていた。
信長もまた、家康の変化に気づく。家康は信長や明智光秀(酒向芳)の挑発にのらなかった。慌てふためくこともなかった。信長は家康とともに富士の裾野で茶を嗜んでいたとき、満足そうな表情を浮かべながらも、家康の様子を気にかけるような目つきをちらと向けていた。光秀は家康の変化について「大層、素直になられましたような気もしまするが……」と述べていたが、信長にとっては、狼に組み伏せられながらも噛みつこうとする白兎の様こそが素直な家康の姿だ。「腹のうちを見せなくなった。化けおったな」と、家康の成長に笑顔を見せる信長だが、どこか寂しげに見えるのが印象に残る。
「信長の足をなめるだけの犬」
「ただの腑抜け」
家臣たちからそう言われてしまう家康だが、悲しくも家康は、瀬名を失ったことがきっかけで、瀬名が愛した“弱くて、優しい心”を誰にも見せなくなったということだろう。
かつて瀬名は、家康の身を案じて薬を煎じていた。今、家康は独りで薬を煎じている。ただ黙々と作業をする家康の様子は、家臣たちの前で見せるものとも、秀吉や信長と向き合ったときのものとも違う。家康が何を思いながら薬を煎じているのかは明確にはわからない。けれど、そのもの悲しげな背中から、瀬名と信康の死を今でも悼んでいることが感じられる。
「殿。お心の内をそろそろお打ち明けくださってもよい頃合いでは?」
家臣たちからの言葉を受け、家康はこう言った。
「信長を殺す」
「わしは天下を取る」
息巻いている様子もなく、ただただ冷静な物言いが、かえって凄まじい覚悟を感じさせた。味方をも欺くほどの気概で家康は覚悟を決めたのだ。「天下を取る」そう口にした家康のまっすぐな目は気高く映る。序盤で描かれた“弱いプリンス”とはまったく異なる姿へと変貌を遂げた瞬間だった。
■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK