『君は放課後インソムニア』は“本物”の実写映画だ 高純度な“ケ”の構築に宿る作り手の愛
『君は放課後インソムニア』は、日常劇でありつつ、空間/環境が重要な作品だ。丸太と伊咲は不眠症という悩みを抱えているが、それをきっかけにして絆を育んでいく。その象徴が「夜のお楽しみ会」。ふたりはこっそりと家を抜け出して夜の街を散歩するのだが、誰もいない真夜中の時間のリアリティが、各部署のワークによって生み出されている。ふたりの髪型や服装にも生活感が漂っていて、画面内に浮いているものが何一つない。
そして、ふたりが安眠できる“守りたい場所”の天文台。さらに、天文部として写真を撮る各スポット、劇中でも重要な役割を果たす橋とそこにたゆたう水面、ふたりだけの音声配信、心臓の鼓動、雨に朝陽に星空……。恐らく、本作を通して初めて『君は放課後インソムニア』の世界に触れる観客は、なんら違和感を抱かないだろう。しかし原作を読んでいる人間からすると、それこそが職人芸の証。すべてに必然性をもたらしているがゆえにこの“画”が成立し、そこに作為が入る隙間がない。
このような世界観で一層輝きを増すのが、森七菜と奥平大兼。ふたりは、本人と役が等分に溶け合うところに味がある俳優だ。つまり、芝居っぽさがなければないほどパーソナルな魅力が際立つし、その部分に制限をかけないキャラクターを託したくなるもの。今回の伊咲と丸太はまさに適任で、役を自分に寄せたり自分を役に寄せていくのではなく、森と奥平が役と腕を組んで一緒に歩んでいくさまがなんとも心地よい。演技でありセリフが用意されているのだろうが、森が微笑んだり奥平が感心したりする表情の「自然に出てしまった」天然さが、本作を実写作品として強固なものにしている。
『君は放課後インソムニア』にはドラマティックな展開があるし、切なくも美しいラブストーリーでもある。親子のドラマや、孤独と救済というテーマも内包している。ただ前提として、本作は地方に暮らす高校生が一歩ずつ日々を歩んで成長していくさまを優しく温かに見つめた物語だ。つまり、劇的は日常の積み重ねの上に発生するものであるということ。日常描写という地盤が強固だからこそ、伊咲と丸太の距離がぐっと近づく“イベント”を違和感なく受け入れられるどころか、画面に映る全ての瞬間が愛おしく感じられてしまうーー。“ハレ”を描くための“ケ”の構築、その純度の高さをぜひ本作から感じ取っていただきたい。
■公開情報
『君は放課後インソムニア』
全国公開中
出演:森七菜、奥平大兼、桜井ユキ、萩原みのり、上村海成、安斉星来、永瀬莉子、川﨑帆々花、工藤遥、斉藤陽一郎、田畑智子、でんでん、MEGUMI、萩原聖人
原作:オジロマコト『君は放課後インソムニア』(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)
監督:池田千尋
脚本:髙橋泉、池田千尋
企画・制作プロダクション:UNITED PRODUCTIONS
配給:ポニーキャニオン
製作:映画「君ソム」製作委員会
©オジロマコト・小学館/映画「君ソム」製作委員会
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