『I MAY DESTROY YOU』は画期的なドラマだ 現代的な方法で描いた性的暴行とその後遺症

 #MeToo以降、映画やドラマでもレイプをめぐる物語に対する見直しが進んでいるが、第73回エミー賞リミテッドシリーズ部門で脚本賞と音楽監修賞を受賞した『I MAY DESTROY YOU / アイ・メイ・デストロイ・ユー』は、現代的で斬新な方法で性的暴行とその後遺症について探求した画期的なドラマである。製作総指揮・脚本・監督・主演を務めたミカエラ・コール自身が、実際に友人と飲みに出かけた際に、見知らぬ人から飲み物のなかにアルコールを混入されたデートレイプドラッグの経験をもとに、全12話を通して、レイプ被害者がトラウマから立ち直るまでの道のりに焦点を当てた。2020年の米TIME誌が選ぶ「最も影響力のある100人」にも選ばれた彼女は、『ガールズ』(2012年~2017年)のレナ・ダナム、『フリーバッグ』(2016年~2019年)のフィービ・ウォーラー=ブリッジなど、ドラマの主演から脚本、製作までを一手に担うミレニアル世代の女性作家の一人であり、彼女たちは自身の体験をユーモアを交えて正直で率直に反映させることで、男性作家では達成できなかった方法で新しい物語を生み出している。

 物語は、2冊目の締め切りに追われていた新人作家のアラベラ(ミカエラ・コール)が、息抜きに友人たちとロンドンのバーへ夜遊びに出かけるところから始まる。翌朝、目覚めた彼女は、なぜか頭に覚えのない血が滲み、時折見知らぬ男の顔がなぜか頭をよぎる。ドラマの前半は、彼女が自分の身に何が起こったのかを探っていくミステリーのような体裁が採られている。これは、実際のサバイバーが経験する状況に基づいていると言える。アラベラは、当初、自分が被害者であることすら認めるのが難しい状態にあるようだ。そこから私たちは、薬の影響で被害に気づかず、曖昧な記憶の空白に戸惑い、突然のフラッシュバックに見舞われながも、混乱のなかで事態を整理し、対処しようとする彼女の苦闘に付き添っていくこととなる。

 ドラマを通して、コールは、性的同意を主題としていくが、特に第3話以降、これまで映画やドラマで着目されてこなかった問題を次々に取り上げていくーー生理中の性行為からステルシング(性行為中に相手の合意のないままコンドームを密かに外す行為)、ゲイ男性が受ける合意の性行為後の性的暴行、見知らぬ者同士で合意したと思っていた女性が事後に男性ふたりから策略された3Pだと気づいた場合、あるいは黒人男性と白人女性間での虚偽の強姦の告発まで、性的同意にまつわるさまざまな事象を鋭く検討していくのだ。登場人物たちは誰しも自身の身に起こったことが合意がないと言えるのかどうかよくわからない。アラベラは「レイプされる以前の私は女であることより人種と貧困に敏感だった」と告白するが、コールは彼女の同意に対する不明瞭な理解を辿る過程を通して、私たちにあらゆる形態のハラスメントや暴行を認知させる。

 また、本作は、“その夜”に何が起こったかを描かないことで、従来の物語のようにレイプの場面を直接ないしは繰り返し見せることを回避する。決して強姦魔の視点に与しないのだ。重要なことは、時折挿入される強姦の場面も基本的にアラベラの視点からのみ映し出されていることだ。これまで映画やドラマは、捕食者の男性の視点から女性の裸体を撮ってきたが、それを覆す方法であり、これは、人身売買で売春をさせられている若い女性を描いた『リリア4-ever』(2002年/日本劇場未公開)を彷彿とさせる(近年ではアメリカのポルノ業界の内情を描いた『Pleasure』(2021年/日本劇場未公開)でも同種の撮影を取り入れていた)。

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