『コーダ あいのうた』が可視化した手話の奥深さ 普遍的な親と子どもの成長

“子離れ”“親離れ”の普遍的な物語

 ルビーは音楽大学への入学を目指すようになるが、家族からは理解されない。彼女の歌を聞くことができない彼らは、ルビーの実力にも半信半疑で、なにより彼女が通訳として家業を手伝うことができなくなることに不満をこぼす。ルビーは自分がやりたいことと、家族が自分に期待していることの板挟みになってしまうのだ。そんななか兄のレオは、両親とは違ったいらだちを妹にぶつける。「やりたいことを見つけた若者が、親の期待との間で葛藤する」というのは、これまでにも数多く作られてきた若者の成長物語で見慣れた構図だが、ろう者のコミュニティやコーダという一般的にはあまり知られていないモチーフを取り入れたことが、人々の関心を引いた。しかし『コーダ』の物語は、単純に目新しいテーマを扱ったものではない。子どもはいつしか親の知らない世界、ときには親には理解できない世界に触れ、そこへ飛び込んでいく。それはろう者であっても聴者であっても同じことだ。本作は、コーダという特徴的な存在を中心に据えてはいるが、普遍的な「子離れ」「親離れ」の物語と言えるだろう。そして、そのなかで見出す家族の愛の物語だ。このストーリーを通して成長していくのは、ルビーだけではない。それが私たち観客の心を強く揺さぶるのだろう。

 本作のアカデミー賞受賞、および大ヒットによって「コーダ」という存在が広く知られるようになった。同時に、手話を学ぶ人が世界的にも増えたと言われている。笑いと涙に満ちた『コーダ あいのうた』は、新たな視点から普遍的な家族の愛を描いた。ルビーの歌声とやさしい物語に心を奪われるだろう。

■放送情報
『コーダ あいのうた』
日本テレビ系にて、6月16日(金)21:00~22:54放送
監督・脚本:シアン・ヘダー
製作:フィリップ・ルスレ、パトリック・ヴァックスベルガー
撮影監督:パウラ・ウイドプロ
プロダクションデザイナー:ダイアン・リーダーマン
衣装:ブレンダ・アバンダンドロ
音楽:マリウス・デ・ブリーズ
音楽プロデューサー:ニコライ・バクスター
出演:エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エウヘニオ・デルベス
©2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

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