今野浩喜が『らんまん』で示す俳優としての立ち位置 3度目の朝ドラでどんな役割を担う?

 “お笑い”というバックボーンを持ち、アクティブな俳優活動を展開する者たちが数多くいる。たとえば、東京03の角田晃広は公開中の映画『怪物』で作品を支える印象的な役どころを担っており、大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)での妙演も記憶に新しいところ。どちらも世間の注目を集めている作品であり、この2作に出演している角田が俳優としてどのような立ち位置にあるのかが端的に分かるだろう。そんな彼と似たような存在に、今野浩喜がいる。そう、朝ドラ『らんまん』(NHK総合)に出演中の彼である。

 『らんまん』とは、神木隆之介が演じる主人公・槙野万太郎が植物学者の道を歩む物語を描いているものだ。土佐出身の万太郎は上京し、東京大学の植物学教室にて本格的な研究のキャリアをスタートさせた。さまざまな人々に囲まれての「東京編」が展開しているところである。万太郎の才能と研究意欲に一目を置く教授の田邊彰久(要潤)や、万太郎に共鳴していち早く心を開いた波多野泰久(前原滉)に藤丸次郎(前原瑞樹)といった新たな仲間にも恵まれたが、みんながそうというわけではない。小学校中退の万太郎を快く思わない者もいる。夢と希望と高い理想を胸に生きる万太郎のことを疎ましく思う人間もいる。この作品で今野が演じる植物学教室の講師・大窪昭三郎はまさにそのような人物だ。

 彼は、万太郎のことを忌み嫌う植物学教室の助教授・徳永政市(田中哲司)の腰巾着のような存在で、自分よりも格が上の者にはこびへつらう。古今東西のあらゆる作品には主人公にとって壁となる存在が登場するもので、彼らの横には往々にして小物が控えている。“ガキ大将の取り巻き”とでも言ったら分かりやすいだろうか。はっきりと言ってしまえば中身のない人間であり、無責任で立場が曖昧。その場やその瞬間ごとの強者の側に立つ。と、短い出番の中から見て取れた大窪のキャラクターについて書いてみたが、さすがに言葉が過ぎたかもしれない。実は思いの外いい奴なのかもしれないのだから。つまり、今野浩喜という俳優は、こういった役どころを演じるのが上手いのだ。

 声にも表情にも一度触れたら忘れられないような“クセ”があるが、個性豊かな登場人物たちの中で目立とうとするものなどでは決してなく、あくまでもそこで展開するキャラクター同士の関係性を重視しているように感じる。大窪はとにかく自分の利になるように動く準備を常にしているようであり、だからこそ立場が曖昧なのだ。これらのことが言動ににじみ出る今野の演技は軽やかで、その体重移動のさせ方によって万太郎の敵にも味方にも転身するのだろう。ユニークな人物でもあり、どことなく“腹に一物がある”印象のキャラクター。万太郎を見守ってきた身としては、ぜひとも味方になってほしいところだ。

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 さて、すでに膨大な数の作品で俳優活動を展開してきた今野だが、彼が朝ドラに参加するのはこれが3度目だ。『まんぷく』(2019年度後期)に『エール』(2020年度前期)、そして今作と、ほんの数年のうちに立て続けにである。こういった事実が、今野が俳優としてどのような立ち位置にあるのかを端的に物語っているだろう。そんな彼に、今作では何を期待すべきだろうか。それはやはりコミカルなパートを喜劇俳優として牽引し、盛り上げてくれることだ。田中哲司らをはじめとする、笑いを取れば涙も誘う優れた演技者たちが周囲には揃いも揃っているが、正統な“お笑い”というバックボーンを持つ俳優・今野浩喜にしかできないことがあるだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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