『違国日記』新垣結衣の槙生役に期待できる理由 共通する“心地よい寂しさ”
槙生がどういう人間かを一言で表すなら、自他の境界線を曖昧にしない人。つまり、「他人(ひと)は他人、自分は自分」と割り切って生きている。それが前述した“心地よい寂しさ”に繋がっており、彼女が朝に向ける言葉や態度はもしかしたら冷たいと感じるかもしれない。だが、親という精神的支柱を失い、心許なさを感じる朝に、「あなたとわたしは別の人間で、あなたのさみしさをわたしは分かってあげられない」と告げながらも肩を抱く槙生に不思議と救われる。そこには、最大限の“尊重”があるから。本作は「人と人とは分かり合えない」という前提の上で、それでも、だからこそ歩み寄ろうとする人々を描いた作品なのだ。
槙生を見て、「自分のようだ」と感じる人も多い。きっと新垣が過去に演じてきた役に同じような思いを抱いた人もいるのではないだろうか。新垣の役者としての凄さは、やはり“普通”の人を演じられるところにあると思う。それは彼女自身、今年で芸歴22年と長く芸能界に身を置き、多数の作品に出演しているにもかかわらず、明確なイメージを持たないからだろう。未だその“素顔”はベールに包まれており、独自の世界観を持っている。だからこそ、どんな役にも違和感なく馴染むのだが、彼女がさらに凄いのは演じる役の感情に普遍性を持たせるのではなく、着の身着のままに表現できるところだ。日常に散らばる違和感や言語化できないモヤモヤとした感情を拾い上げ、映してくれるので、新垣が演じる役には自分を投影しやすい。『違国日記』はまさにそうした繊細な心理描写が最大の魅力であり、新垣はそのストーリーテラーとして適任である。映画は2024年に公開予定。いつもとは少し違った、だけど自身の役者としての強みが生かされるであろう新垣の槙生役が今から楽しみだ。
■公開情報
『違国日記』
2024年、全国ロードショー
出演:新垣結衣
原作:ヤマシタトモコ(祥伝社フィールコミックス)
脚本・監督:瀬田なつき
企画・制作:東京テアトル
配給:東京テアトル、ショウゲート
©2024『違国日記』製作委員会
公式Twitter:@ikokunikkimovie