役所広司&吉沢亮が灯す希望の“炎” 『ファミリア』は日本に暮らす“私たち”の映画だ

『ファミリア』役所広司が灯す希望の“炎”

 「遠く離れた土地で、話す言葉も育った環境も違うのにさ、俺たち家族になるんだよ」とは、映画『ファミリア』における、吉沢亮演じる主人公の息子・学の台詞である。「ファミリア」とは、ポルトガル語で「家族」のことを言う。異国の地において、夕暮れ時のオレンジ色の暖かい光に包まれて、彼自身が輝いているかのように見えるほど嬉しそうに語る彼の言葉は、作品の本質を貫いていた。

 『ファミリア』は「希望」の物語だ。どんなに苦しい状況に置かれても、ささやかな夢を胸に抱いて懸命に生きていこうとする人々が、それでも報われず、幾度も理不尽な目に遭う、重く苦しい物語であるが、それでも私は、本作を、その先の「希望」を見つめるための物語であると思いたい。陶器職人の誠治(役所広司)が灯し、彼を慕う在日ブラジル人青年のマルコス(サガエルカス)が魅入られる「炎」は、まるでその象徴のようだ。誠治が住む日本の片隅の小さな山里と、その隣町の、マルコスらブラジル人が多く住む団地で起こる様々な出来事は、それ自体が日本の、さらに言えば世界の縮図のように、争いの絶えない世界全体を照らしている。

ファミリア

 6月2日にBlu-rayとDVDが発売となる本作は、役所広司演じる陶器職人の主人公・誠治と、吉沢亮演じる海外で活躍する誠治の息子・学と難民出身の妻ナディア(アリまらい果)、そして彼らが知り合う在日ブラジル人青年・マルコス、彼の恋人・エリカ(ワケドファジレ)らが織りなす物語だ。約300万人の外国人が暮らしている日本。その中のブラジル人に光を当てた本作は、実際に起きた事件などをヒントにした、いながききよたかによるオリジナル脚本である。役所広司、吉沢亮を主軸に、佐藤浩市や松重豊といったベテラン俳優が脇を固め、「罪なき人々を襲う理不尽な暴力」そのもののような役柄を演じたMIYAVIが強烈な印象を残す本作は、それだけでも映画として十二分に成立する。だが、その中心に、オーディションで選ばれた、実際に日本で暮らすブラジル人の格闘家や俳優、日系4世らのヒップホップグループGREEN KIDSなど個性豊かな若い演者たちがいることがなにより素晴らしい。「これは私たちについての映画」と捉えた彼らの、演技を超えたリアルな息遣いが、彼らの問題は私たちの問題でもあり、決して目を背けてはならないことなのだと、観客に直に訴えかけてくる。

 監督は、『八日目の蝉』『ソロモンの偽証』の成島出。2023年公開の映画『銀河鉄道の父』の監督でもあり、本作の主演である役所広司と再びのタッグを組んでいる。『銀河鉄道の父』を含めると4度のタッグとなる成島と役所の、監督と俳優としての深い信頼関係が、作品全体に揺るぎない安定感を与えているのは間違いないだろう。また、『銀河鉄道の父』は役所と宮沢賢治を演じる菅田将暉との「父と子」の映画であるが、本作は役所と吉沢亮との「父と子」の関係性を描いた映画でもある。劇中において、2人で“ろくろ”を回す場面があるのだが、「普段こう、映画とかで観させていただいている役所さんを生で感じられて、すごい幸せでしたね」と本作パッケージの特典映像に収録されているメイキングにおいて吉沢が言及しているように、決して長くはない2人の場面の、特にその1コマは、劇中の不器用ながら濃密な親子関係と、俳優としての役所と吉沢の関係性が相まって、なおかつ凝縮されていて、非常に心に残る名場面となっていた。

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