斉藤由貴は最強のコメディエンヌだ 『Dr.チョコレート』でも“ゴッドマザー”な存在感

斉藤由貴は最強のコメディエンヌだ

 最近の斉藤由貴のゴッドマザー感は半端ない。放送中の『Dr.チョコレート』(日本テレビ系)ではスーパー優秀なオペ看を演じている彼女だが、長いキャリアの中で様々な役を演じながらイメージをどんどん更新し続け、ここ最近はどんな役でも、凄みと貫禄が自然ににじみ出ている気がする。

 彼女は1980年代にアイドルとしてキャリアをスタート。そこから紆余曲折を経ながらも40年以上経った現在、ゴールデンタイムのドラマに様々な年代の俳優たちと一緒に出演し、抜群の存在感を放っている。

 筆者は彼女のデビュー時から知っている世代だが、アイドル時代には特別に興味を持って彼女を見ていたわけではない。もちろん毎週の歌番組によって彼女のヒット曲はよく知っているし、代表作の『スケバン刑事』(フジテレビ系)も知っている。彼女がCMに出演していたアクシアのカセットテープも使っていたし、そのCMに使われた歌だって歌える。

 だがその当時、現在演じているような、コメディセンスが必要な役も凄みのある女性も演じる斉藤由貴像を想像することは不可能だった。

 アイドル時代の彼女は、ビジュアルが可愛いのはもちろんだが、どちらかといえば繊細、儚げ、といったイメージが全面におし出されていて、コメディタッチのドラマにも出演してはいたものの、あくまでアイドルとしての出演。基本は真面目、けなげ、といった印象が強かったと思う。1989年の『はいすくーる落書』(TBS系)で演じた教師も、不良の生徒たちに振り回されながらも互いに成長していくという好感度の高い役だったが、基本的に笑わせようという役ではなかった。

 1990年代に入ると相当数の2時間ドラマなどに出演してはいるが、テレビ出演という意味では第一線からは少し引いた印象だった。一方でミュージカルや舞台にはコンスタントに出演しており、1995年には三谷幸喜脚本のコメディ『君となら』に出演。

 その時点で彼女のコメディセンスを見抜いていた三谷幸喜もさすがだと思うが、より多くの人が彼女の笑いのセンスに驚嘆したのは、宮藤官九郎脚本の2006年のドラマ『吾輩は主婦である』(TBS系)だろう。

 彼女が演じたごく普通の主婦、矢名みどりは、夏目漱石に憑依されてしまうというかなりトリッキーな設定なのだが、この時の斉藤由貴は面白過ぎて破壊力ばつぐんだった。並みのお笑い芸人よりも面白いと思う。

 本田博太郎が漱石として語るナレーションに合わせて動きながら、自分のことを「吾輩」と呼び、主婦として家事を学び、歌い(学生時代にミュージカル研究会所属だったため)、恋をし(子どもの小学校の教師に)、そしてやはり小説を書き始める……と、それだけ聞くとなんだかよくわからないかもしれないが、眉間にシワを寄せ、片手をこめかみ辺りに当てる漱石ポーズで悩み、大真面目に漱石として演じている斉藤由貴はかなりおかしい。

 特に動きがいちいち面白く(前半の首に鈴を付けられている時が最高)、それまで彼女にそういう笑いのセンスを感じていなかった筆者は毎話吹き出すと同時にかなり驚いた。

 そのドラマ以降も、内藤剛志主演の人気シリーズ『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)で、大福が大好きな有能刑事を演じるなど、連続ドラマ、スペシャルドラマなどにコンスタントに出演。笑いの要素が入った役も増えていったが、一方でシリアスな役も当然上手く、作品ごとに迫力や凄みを増していく。

 2011年の『陽はまた昇る』(テレビ朝日系)では、主演の佐藤浩市演じる警察学校教官の妻だったが、幼なじみで犯罪を犯した男と失踪してしまうというひどい妻を演じた。

 この頃から、魔性の女感、魔女感がより強まっていったと思う。

 比較的最近の作品では、2020年の『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)。遠藤憲一演じる横暴な社長・霧島源平に口答えできない、おとなしい妻・芙有子を演じた。観ているこちらがイライラするくらい弱いキャラクターだったが、イライラさせられるということはそれだけ彼女が上手いということだろう。

 また2021年の、『私の夫は冷凍庫に眠っている』(テレビ東京系)で演じた孔雀(主人公の家の向かいに住むミステリー作家)は、得体の知れなさ具合と、近所の家を観察している野次馬具合がぴったりハマっていて秀逸だった。

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