『合理的にあり得ない』が試みるドラマの笑い 真実を知った松下洸平の涙

 『合理的にあり得ない』の原作者である柚月裕子は『佐方貞人』シリーズや『孤狼の血』など社会派の作風で知られる。軽快なテイストの本作が、実社会への問題意識に裏打ちされていることがあらためて伝わってきた。

 愛する人に死なれてしまった人間は、そこから離れることができない。多香子も貴山も喪失感や孤独の先で、「真実を知りたい」という思いに突き動かされた。死は絶対的で動かしがたく、真実をもって抗う以外ないからだ。現実に同じような問題を抱えて苦しんでいる人たちはいる。彼らの心中を思うと、決してなおざりにすることはできない。

 話は戻って、一度正体がバレているのに、クビになることを承知で、涼子はよく増本の事務所に潜入しようと思ったなと感心する。本作はそもそもの前提からして、ツッコミどころ満載である。主人公の涼子自身、多芸多才で何でも器用にこなし、稼ぐ道はいくらでもあるのに、どうしてわざわざプレッシャーばかりの弁護士をしていたのかという疑問もある。辞めてからはなおさらだ。

 ギャグに関しても回収しないボケっぱなしの作風は、視聴者の好みが別れるところだ。昭和のズッコケ感が口に合わないのは、致し方ない部分もある。それでも、ユーモアはそこら中に氾濫しているのにペーソスが不足しがちな2020年代にあって、『合理的にあり得ない』はドラマの形式を借りて共同体的な笑いの復権を試みている、と言ったら褒めすぎだろうか。先行の諸作品を観る限りその試みは茨の道だが、一見隙だらけの本作が、実はけっこう凝って作られていることに気付いた瞬間、違う層からの笑みが浮かぶのも事実である。

■放送情報
『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:天海祐希、松下洸平、白石聖、中川大輔、丸山智己、仲村トオルほか
原作:柚月裕子『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』(講談社文庫)
脚本:根本ノンジ
演出:光野道夫、二宮崇、倉木義典
プロデューサー:萩原崇、清家優輝
音楽:眞鍋昭大
制作協力:ファインエンターテインメント
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト: https://www.ktv.jp/arienai/
公式Twitter:https://twitter.com/arienai_g
公式Instagram:https://www.instagram.com/arienai_g/

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