『ラストマン』インフルエンサーを救った福山雅治の言葉 音声で聞く豊かな作品世界
皆実の目となって凶悪犯罪が跋扈する修羅の巷をガイドするのが心太朗の役割なら、見えない世界に心太朗をいざなうのが皆実で、皆実は心の眼で罪を犯す人間の心理を明らかにする。第5話で描かれていたのは、インフルエンスすることの意味だ。カナカナのアカウント名で雲母(平澤宏々路)がSNSにお弁当をアップしていたのは、出て行った母親にメッセージを送るためだった。雲母のお弁当は多くのフォロワーを獲得したが、そのコアにあったのは母親への思いだった。
身近な誰かへの思いほど強いものはないし、結果的にそれが多くの人に伝わる。何十万人というフォロワーを持つアカウントが、ただ一人のために発信していた逸話は示唆的だ。映えにとらわれていた青嶌(高梨臨)が、カナカナや割り切った戦略で周囲を巻き込んでいたナオンの後塵を拝していたこともうなずける。数字とバズに血道を上げるあまり、肝心なことを見失った青嶌の悲痛な叫びは他人事ではない。
5話を終えて中盤に差しかかった『ラストマン』では、皆実と心太朗の共通点が明らかになった。父親不在の家庭で育った2人には、それぞれ不幸な生い立ちがあり……。殺人犯の実父を持つ心太朗が遺体安置所に足を運ぶエピソードは、心太朗という人物を雄弁に伝えていた。よく知る間柄の佐久良(吉田羊)に「馬鹿らしい」と吐き捨てられる心太朗だが、そうでもしなければ自制心を保てない。子ども時代の記憶を引きずるような、単純で否定しようのない心理は、SNSでセルフィ―を加工するインフルエンサーと変わらない。
誰もが生きるために本来の自分をゆがめる中で、それら全部を含めて皆実の言葉に救われた。「みんなが幸せになれる嘘なら、私は良いと思うんです」と話す皆実は、すべてを達観しているように見えた。
■放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:福山雅治、大泉洋、永瀬廉(King & Prince)、今田美桜、松尾諭、今井朋彦、奥智哉、王林、寺尾聰、吉田羊、上川隆也
脚本:黒岩勉
演出:土井裕泰、平野俊一、石井康晴、伊東祥宏
撮影監督:山本英夫
プロデュース:益田千愛、元井桃
編成プロデュース:東仲恵吾
音楽:木村秀彬、mouse on the keys
全盲所作指導:ダイアログ・イン・ザ・ダーク
協力:日本視覚障害者団体連合
製作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/lastman_2023_tbs/
公式Twitter:@LASTMAN_tbs
公式Instagram:LASTMAN_tbs