『らんまん』東京編のイメージは『週刊少年ジャンプ』? 制作統括に聞く今後のポイント

 東京編が始まり、万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)の再会を中心に、物語が加速している連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合)。万太郎と寿恵子はどう結ばれていくのか、そして2人は明治・大正・昭和という時代をどう駆け抜けていくのか。制作統括の松川博敬にここまでの手応えと今後のポイントについて話を聞いた。

“リミッター”を外して描いた第1週から第5週

ーーここまでの放送を終えて、松川さんは視聴者の声をどのように受け止めていますか?

松川博敬(以下、松川):ちゃんと届いていて感激しています。ある程度は覚悟していましたし、怖かったんですけど、ちゃんと受け止めてもらっているんだって。その声の中には「最初から濃く描かれていて息切れしないかな」というような制作状況を心配してくださっている方もいて、実際、第5週目までにかなり勝負をかけていました。朝ドラって、撮影スケジュールにしても、予算範囲にしても長期のマラソンなので、ある程度のペースをメイクしていかなきゃいけないのは私たちも重々分かっているんですけど、第5週目まではリミッターを外してやりたいことを全部やってみようと。第5週で視聴者の心を掴もうという方針でいました。かといって、東京編から手を抜くわけではないのですが、その気合がちゃんと視聴者の方々にも伝わっているのが嬉しいなと思っています。

ーー長田育恵さんの脚本はどんなところに魅力がありますか?

松川:骨太でダイナミックな脚本を書かれますよね。それにスタッフもキャストも応えていて、相乗効果で「大河みたい」と視聴者の皆さんにはよく言っていただいております。そのダイナミックさと同時に登場人物の心情も繊細です。長田さんは本格派の脚本家であり、仕事のやりがいのある作家さんだと思っていますね。

――「高知編」では槙野綾役の佐久間由衣さんの芝居が非常に素晴らしかったです。実際に綾のモデルはいたのでしょうか?

松川:まず、この『らんまん』は牧野富太郎さんをモデルにしたフィクションの世界であるということが前提にあります。本作の企画プレゼンの段階では、私が分かりやすく「これは学者版の坂本龍馬」であり、「同時代の土佐人で、常識にとらわれず道を切り拓いていった植物学者」と説明していました。富太郎さんは一人っ子で兄弟はいないんですけど、姉の綾さんのイメージは、坂本龍馬の姉である坂本乙女さんなんですね。負けん気が強くて、男気があるキャラクター。実は富太郎さんには、従姉弟でもあり、許嫁の猶さんという方がいらっしゃいまして、婚姻関係にあった可能性があります。長田さんが猶さんに惹かれていたのもあり、私もこの人のことをなき者にはしたくないという中で、綾さんの人物設定は長田さんのアイデアからできています。万太郎とは姉弟として育ちながら、実は従姉弟だったということで急に夫婦にさせられるも、心がついていかないというので結婚はしなかったという話になっていて。そこはすごいアイデアだなと感じましたけど、富太郎さんと猶さんも家が決めた結婚だったので、そこには乖離はなかったんじゃないかなと思っています。お子さんもいらっしゃらなかったようですし。その後、猶さんは番頭の井上和之助さんと結婚して、酒屋を継ぐというのが史実としてあったので、そこをトレースしたということなんですけど。深く知りたい方は興味を持って調べていただきたいですけど、『らんまん』は『らんまん』の物語として楽しんでいただければと思います。

ーー今後は万太郎と寿恵子の2人の物語が長く描かれていきます。これからの見どころを教えてください。

松川:第9週から第11週あたりでやりたいのが、牧野富太郎さんの史実をトレースしながら面白いところをピックアップして広げていくということです。第10週での印刷工場で働くのは史実通りなんです。富太郎さんは実際に自分で植物画を描いて印刷しに修行に行くんですね。それはもうほとんどそのまま描いていて。その目的が植物学雑誌を学生たちで作ろうという話になるのですが、そこがすごく面白いなと思ったんです。藤子不二雄先生をモデルにした『まんが道』とか、神木くんが出演していた映画『バクマン。』のような、若者の熱気というのをやりたいなと。まるでトキワ荘みたいな青春軸と並行して恋愛も描かれる。「友情・努力・勝利」の『週刊少年ジャンプ』のような、そんなグルーヴ感を生み出したいなと思いました。

ーー寿恵子視点の心情まで描こうとされたのには、なにか意図はありますか?

松川:寿恵子さんは、鹿鳴館の開館に向けた準備としてダンスのパフォーマンスをすることになります。新しい世界に踏み出したいという、その明治という新しい時代の女性の象徴であって。1週目から5週目の高知編のヒロインが綾さんだとしたら東京編のヒロインが寿恵子さんに引き継がれていく。寿恵子さんは、綾さんのような古い因習に縛られてはいないんですけど、さらに上のステージに向かっていく新しい女性、自己実現をしようとしている存在として描いています。

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