今年の秋はよしながふみ祭り! 『大奥』『きのう何食べた?』続編を同時に楽しめる喜び

「食いもん、油と糖分控えてさ、薄味にして、腹八分目で、長生きしような。俺たち」

 きっとseason1の最終回でシロさん(西島秀俊)がケンジ(内野聖陽)に送った名台詞に、多くの人はこう思わされたことだろう。どうか、その2人で歩む長い、長い人生を私たちにも観せてくださいーー。そんな願いが通じ、この秋、シロさんとケンジが帰ってくる。

 2LDKのアパートで共に暮らす同性カップルの日常を「食」を中心に描いたドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)のseason2が10月クールに放送されることが決定した。原作は漫画誌『モーニング』(講談社)にて、2007年から連載されているよしながふみの同名コミック。料理上手で悪く言えばケチ、よく言えば堅実な弁護士の“シロさん”こと、筧史朗を西島、人当たりの良さは抜群で悪く言えばのんき、よく言えば大らかな美容師の“ケンジ”こと、矢吹賢二を内野が演じている。

『きのう何食べた?』がごく普通な生活の根底に込めるテーマ 一番大切な家族を思って

劇場版『きのう何食べた?』はテレビ東京系「ドラマ24」で放送された30分枠ドラマと同じく、街の小さな法律事務所で働く弁護士・筧史…

 シロさんが仕事を終え、スーパーで料理仲間の富永佳代子(田中美佐子)と世間話をしながら買い物をしたら、家に帰って夕飯を作る。しばらくしたらケンジが帰宅し、その日あったことを語らいながら食事を取る。そこに映し出されるのは、何でもない日常。起こる事件といえば、お金の使い道や自分たちの関係をオープンにするかしないかなど、よくある“家族”のスタンスの違いによる摩擦だ。

 ただ、他の“家族”と違うのは2人の関係を証明するものが何もないこと。血を分けた親子でも兄弟でもなく、婚姻届を提出し、法律で正式に認められた夫婦でもない。そんな彼らが、絶妙な力関係で強く結ばれた、“ジルベール”こと航(磯村勇斗)と小日向(山本耕史)カップルや、結婚や出産の意思がない一人娘の行く末を案じる富永夫婦、財産を相手に残すため、養子縁組の利用を決意した同性カップルなど、様々な家族の姿を通し、「共に生きるとはどういうことか」を考えていったのが、season1だった。

 結果的に、その答えはシロさんとケンジが普段から共に囲む食卓にあったといえるだろう。シロさんがケンジの健康を気遣いながら作った愛情たっぷりのご飯を、ケンジが美味しい、美味しいと言いながら食べる。そういう当たり前のようで、当たり前じゃない思いやりや気遣いの上で彼らの何でもない日常は成り立っている。

 シロさんがケンジと喧嘩した時に、「このまま帰ってこないってことも、なくはないんだよな」と呟いたシーンが印象深い。それは彼らに限らず、本当はどの家族にも当てはまることだ。よしながふみの原作とテレ東の人気ジャンルであるグルメドラマを融合させながら、どの立場の人にも当てはまる普遍的な“家族”というテーマを忍ばせる卓越した安達奈緒子の脚本と、親近感の湧く愛おしいキャラクターを作りあげた演者の力で大成功を収めた本作。2021年に公開された劇場版では、シロさんとケンジが2人だけの世界に閉じこもるのではなく、分かり合える人もいて、分かり合えない人もいる世界の中で共に生きていく覚悟を決めるまでが描かれ、興行収入14.1億円のヒットを記録した。

 そして、この度の吉報。season2放送決定の知らせとともに公開されたメインビジュアルでは、以前よりも少し年を重ねたシロさんとケンジの姿が映し出されている。とうとうアラフィフに突入し、否でも応でも訪れる身体的・精神的な変化に直面する2人。共に生きていくとは、互いのそうした変化を受け入れていくことでもある。そんな中でもし自分が先に死んだ場合、残された相手のためにできることは何かと考え始めるのも当然の流れだ。難しい課題ではあるが、まずは何よりも彼らにまた会えるのを楽しみに待ちたい。

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