『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は“有害な男らしさ”の先にある娯楽作

 ピーチ姫が活躍するゲームがいくつかあることは知っていたが、それを差し引いても、悪の大魔王(クッパ)に囚われたお姫様(ピーチ姫)を救いに行く勇者(マリオ)の物語をズラした大胆な構成には驚いた。その結果、ピーチ姫は国を守るために戦略的に行動する為政者で、マリオとの関係も仕事上の仲間でしかないというユニークなポジションに落ち着いている。女性をトロフィーワイフとして扱わない男女平等に対する目配せと言ってしまえばそれまでだが、これが配慮だけで終わっていないのが本作の面白さだ。

 家族思いのマリオは父親に認めてもらえないことに悩んでおり、だからこそ、同じ悩みを抱えるドンキーコングと最終的には意気投合する。一方、クッパは恋愛幻想に執着しており、お姫様を手に入れたいという妄執に囚われている。

 キノコの国と亀の国の戦いに、バナナが好きなサルたち(ジャングル王国)の国と髭の男が加勢するというのが『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の世界観だが、散りばめられたシンボルを並べていくと、男らしさがむきだしになっていると感じる。そうでありながら、男たちが姫を奪い合うという古い物語からあっさりと離脱しているのが本作の面白さで、これは前述した宮﨑駿には描けなかった世界のように思う。

 筆者は『マリオ』を、2010年代のフェミニズム・ムーブメントを経由した男たちの物語だと受け止めた。女を助けることで「有害な男らしさ」という自分たちが抱える問題から目を逸らしてきた男たちが、女に依存せずに男同士で支え合おうと模索する物語として本作を観ると、やっと次のステージが見えてきたと感じる。

■公開情報
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』
全国公開中
声の出演:クリス・プラット、アニャ・テイラー=ジョイ、チャーリー・デイ、ジャック・ブラック、キーガン=マイケル・キー、セス・ローゲン、フレッド・アーミセン、ケヴィン・マイケル・リチャードソン、セバスティアン・マニスカルコ
脚本: マシュー・フォーゲル
監督:アーロン・ホーヴァス、マイケル・ジェレニック
製作:クリス・メレダンドリ(イルミネーション)、 宮本茂(任天堂)
日本語版吹替声優:宮野真守(マリオ)、志田有彩(ピーチ姫)、畠中祐(ルイージ)、三宅健太(クッパ)、関智一(キノピオ)
配給:東宝東和
©︎2023 Nintendo and Universal Studios
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