『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は“有害な男らしさ”の先にある娯楽作

『マリオ』は有害な男らしさの先にある娯楽作

 CGアニメ映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が大ヒットしている。 本作は、世界的人気を誇る任天堂のアクションゲーム『スーパーマリオ』シリーズを、『ミニオンズ』などで知られるCGアニメスタジオ「イルミネーション」と任天堂の開発チームが共同で映画化したものだ。監督は『ティーン・タイタンズGO! トゥ・ザ・ムービー』のアーロン・ホーヴァスとマイケル・ジェレニックが担当している。

 5月15日の時点で全世界の累計興行収入が1600億円を超える大ヒットとなっており、4月28日に公開された日本でも興行収入80億円を突破。その勢いはとどまるところを知らない。

 本作は、アメリカの大手映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」で一般観客からの支持が96%と大絶賛される一方、批評家の支持が59%と賛否が真っ二つに別れたことが大きな話題となった。批判の多くは「ゲーム」の追体験としては完璧だが「映画」としては評価できないというものだ。ここで言う「映画」とは映像によって紡がれる物語とその背後にあるテーマのことで「物語が弱くて、テーマがない」というのが大多数の意見だが、果たして、本当にそうなのだろうか?

 本作の一番の魅力が、アクションゲームの快楽をCG映画で再現したことにあるのは間違いないだろう。つまり、コントローラーでマリオを操作している時の心地よさを映画の中に見事に落とし込んでいるのだ。

 横スクロールアクションを模したブルックリンのシーンから始まり、キノコ王国に向かったマリオがピーチ姫から訓練を受けるシーンや『マリオカート』を思わせる虹の橋でのカーチェイスなど、どのアクションも素晴らしい。中でも感心したのが、高さを意識した立体感のあるフィールドマップ。

 ゲーム原作の映画の多くが、映画に落とし込もうと腐心するあまり、ゲーム本来の魅力を取りこぼしている中、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はフルCGアニメの強みを活かし、キャラクターだけでなく背景もゲームに忠実な形で映像化している。その結果、クレイアニメが動いているような優しい手触りが画面に生まれている。

 このアクションを通じて世界像を提示していく見せ方は、宮﨑駿のアニメ映画の作り方に近く、建物の高低差を意識したレイアウトは『天空の城ラピュタ』などの作品を連想させる。キャラクターの動きを通して世界像を見せていく作品は日本のアニメでも近年は少なくなってきているので、この手触りはとても貴重である。今後『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がシリーズ化されていけば、かつて宮﨑駿のアニメ映画が担っていた立ち位置に収まるのではないかと感じた。

 一方、評価が低い物語とテーマだが、こちらもあなどれないと筆者は感じた。主人公のマリオはイタリア系移民で家族と共にブルックリンで暮らしている。弟のルイージと配管工をしているが、仕事はうまくいっていない。 つまり、冴えない現実を生きる労働者の男としてマリオとルイージは描かれている。

 そんな2人が下水道の事故に巻き込まれた結果、マリオはキノコ王国に流れつき、大魔王クッパの支配するダークワールドで囚われの身となってしまったルイージを助けるためにピーチ姫と共にクッパに戦いを挑むというのが、大まかなあらすじ。ここでまず驚くのが、マリオが救いに行くのがピーチ姫ではなく、弟のルイージという点だ。

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