橋本環奈がラブコメで発揮する強み 『王様に捧ぐ薬指』綾華役は俳優としての“完成形”?
美人すぎるがゆえに周囲から妬まれたりトラブルに巻き込まれ、“悪女”というあだ名を付けられて仕事も長続きできず転々とする。それでいて家族想いで、5人きょうだいの長女として家族を援助するために契約結婚に合意する。TBS系列火曜22時に放送中のドラマ『王様に捧ぐ薬指』のヒロイン・羽田綾華のキャラクター設定は、橋本環奈という俳優にとてもよくマッチする役柄ではないだろうか。
もちろん漫画原作の実写化の際には、漫画によって根付いたビジュアルイメージの再現を重視した見方がされることも少なくない。その点においては綾華役を演じられる俳優は他にもいるかもしれないし、橋本環奈にはもっと相応しい役柄があるという考え方もできる。それでも綾華=橋本環奈という配役が実現したことによって、確実にこのドラマのラブコメとしての魅力は高まり、綾華というキャラクターと彼女が置かれるシチュエーションの特殊性に説得力が生まれ、何よりも橋本環奈という俳優の面白味が増す。まさに“ギブアンドテイク”の関係がそこに成り立っているといえよう。
そもそも橋本環奈の俳優としての方向性は概ね極端なふたつの道に分岐していた。『銀魂』シリーズをはじめとした福田雄一作品でユニークな顔芸を披露し続ける極めて特徴的な“喜劇女優”か、あるいは『十二人の死にたい子どもたち』で演じた自殺願望のある芸能人という役柄に代表されるような“影”のある役柄か。
前者の場合は、ビジュアルの強さを持ち合わせ、そのイメージが(いくらかの嫉みも加味されつつ)先行しがちな役者に男女問わず見受けられる、“親しみやすさ”を引き出そうとするねらいがあるのだろう。奇しくも今回の相手役である山田涼介もまた、いまなお絶世の美青年でありながら不思議なほどにパーフェクトな王子様キャラよりも、『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)や『俺の可愛いはもうすぐ消費期限!?』(テレビ朝日系)のようなちょっと抜けたキャラクターを演じることが目立ってきた役者である。つまり今回のドラマでは似たような道を歩んできたふたりがそれぞれのポテンシャルを最大限に発揮して真っ向からラブコメをやるという強みがあるわけだ。
もう一方の“影”のほうもまた、異なるベクトルで人間味を引き出す役割をはたしてきたといえよう。コメディ作品でありつつも家族の復讐のために燃える『ルパンの娘』(フジテレビ系)、はたまた周囲からは距離を置く学生役を演じていた『連続ドラマW インフルエンス』や映画『カラダ探し』も同様であり、二面的なキャラを演じた『ネメシス』(日本テレビ系)もそうだ。これらはいわゆるパブリックイメージからのギャップを生みだすことよりも、演技者としての素質や可能性を引き出すうえで成功しており、ある意味でまっさらな状態から俳優・橋本環奈を作り上げる土台になったとも捉えることができる。
今回のようにビジュアルパワーを活かした自尊心&自己肯定感強めのキャラクターといえば、映画『かぐや様は告らせたい』シリーズにおける四宮かぐやに近しいものを感じる。同作では平野紫耀演じる白銀御行に恋煩いしつつ、相手に“告らせる”ためにあらゆる策を講じていく。映画『斉木楠雄のΨ難』における照橋心美も同様のキャラクター性を携えているが、前者はラブストーリー寄り、後者はコメディ寄りで明確な違いがあり、その一方で双方共に少年漫画ヒロインっぽさが強く、“悪女キャラ”の清々しさはあれど、いささかコミック的な方向に落とし込まれていた点は否めない。