『あなたがしてくれなくても』は感想を共有したくなる? セックスを通じて悩む“夫婦愛”

 テレビでラブシーンが流れると、なんだか居心地が悪くなってしまう……。それが、日本のお茶の間で多く見られる風景ではないだろうか。4月13日にスタートした木曜劇場『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)のテーマは、ずばりセックスレス。となれば、セックスを抜きに語ることはできない。そのせいか、オンエア前からSNSの検索欄に「気まずい」とサジェストされるほど、多くの人の心をかき乱していることが窺えた。

 性について語ることがタブー視される時代ではなくなったものの、セックスは1人ではできないもの。自分とパートナー、それぞれのプライバシーと尊厳に直結する話題だからこそ、やたらと話すことができないことも「気まずさ」に拍車をかけているのかもしれない。しかし、番組公式サイトのイントロダクションによれば、「今や婚姻関係にあるカップルの2組に1組がセックスレスと言われる時代」なのだというから、当事者だという人もきっと少なくないはず。

 さてこのドラマ、1人で観るか、誰かと観るか。と、多くの視聴者が迷いながらの第1話だったのではないだろうか。そして、きっと観たあとには何かしらの感想をリアルの友人なりSNSなりでつぶやきたくなるはず。そして、このドラマが進むにつれて、ちょっとはセックスについて語りやすい時代になっていけばいいなと思った。

夫婦のセックスは理性的な努力があってこそ!?

 物語の主人公・みち(奈緒)は32歳の会社員。カフェの雇われ店長をしている夫の陽一(永山瑛太)とは結婚5年目で、穏やかな日々を過ごしてきた。仲良しだが、2年間セックスをしていない。

 このまま満たされることなく枯れていくのだろうか。そんな不安と、いつか子供をというプレッシャーから、みちはレス解消を目指してあの手この手で努力を重ねていく。しかし、その努力が今度は陽一には重圧となってしまう。ついには「そんなにしたいの?」「性欲強くない?」なんて言葉まで飛び出す始末だ。

 みちは、ただセックスがしたいわけじゃなかった。陽一に女性として愛されている実感が欲しかっただけ。それは裏を返せば、今の生活ではそれが得られていないということ。暮らしを共にしているだけでは潤わない何かがあるのだ。「部屋でタバコを吸わないで」「濡れたものをそこに置かないで」と注意して回ったり、脱ぎっぱなしの靴下を探してまた注意をしたり……、そんな“お母さん”のような役割をしたくて結婚したわけではないのだから。

 とはいえ、陽一のほうにも言い分はありそうだ。恋人時代には無邪気に喜んでくれたことも、「それをするなら……」とケチをつけられる形になってガッカリしてしまうのも一度や二度ではなかったのだろう。

 もしかしたらみちが買ってきた缶ビールを「高いやつ」と言うあたり、夫婦間の収入額の差に肩身の狭さがあるのかもしれない。さらに想像力を働かせると、料理が好きでカフェの雇われ店長になったのに家で包丁を握らないのも、何かしら小言を言われてしまった過去があったからかもしれない。

 そんなふうに一緒に暮らすなかで、本人たちも気づかないうちに変化していくものがある。相手への配慮よりも自分の本音が先にだだ漏れてしまう表情。前なら気をつけていたはずの言い回しの雑さ。それでもわかってくれるだろうという甘え。それらは取り立てて話し合い、すぐに直してもらうほどでもないと思われる本当に小さな不満だ。しかし、それが澱となって少しずつ溜まり、気づけばドロドロとした淀みに足をとられて動けなくなってしまうように。

 つい「セックス」というと野性的で本能的なものに聞こえる。実際に、新鮮な関係性のときには衝動的なセックスを楽しんだことがある2人ならばなおさらだ。でも、夫婦間や長年連れ添ったパートナーとのセックスは、よっぽど理性的でなければ維持できないものなのではないか。どんなに慣れ親しんだ相手にも愛情を丁寧に伝えていく努力をすること。リスペクトができる余裕を維持していくこと。セックスは、その象徴でしかないのかもしれない。

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