『ひとりぼっち』に込められた橋田壽賀子への哀悼 坂本冬美と一路真輝の姿に重なる歴史

 本作のプロデュースは石井ふく子である。説明不要と思われるが、数々の名作を手がけたプロデューサーで、脚本家の故・橋田壽賀子と組んだ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)シリーズは特に有名だ。結論から言うと、本作の後半パートは橋田に捧げられたものとみて間違いない。2021年4月、ちょうど2年前に悪性リンパ腫で亡くなった橋田を石井は離れた地で見送った。テレビドラマの黎明期から二人三脚で道を切り開いてきた橋田と石井の姿は、男たちから見たら「ままごとみたいな商売」から少しずつ店を広げてきた『ひとりぼっち』の香と聡美の姿に重なる。家族だから「水臭いこと言わないで」「ごめんね、気づかなくて」という台詞には、姉妹同然の橋田に対する哀悼の意が込められていた。

 1時間30分という尺に収まりきらないくらい多くの思いと、観察眼に裏付けられた工夫が注ぎ込まれた本作について、語ろうとすればいくら時間があっても足りない。香の昔の男である矢島(船越英一郎)が女をだしに使ったあげく落ちぶれ、ふたたび現れた時の下がりきった男の肩の描写や、随所に登場する象徴的な手を握る動作など、これまで培ったドラマ作りのエッセンスが凝縮された本作は観るほどに発見がある。その中で、あえて一つ挙げるなら、矢島を更生させた香が聡美たちと「たちばな」で商売を続ける結末になっていることだ。有害な男性性をやんわりと否定し、シスターフッドのエピソードで締めくくったところに、盟友であり先駆者として手を携えて歩んだ2人の誇りと気概を見る思いがする。

■配信情報
『ひとりぼっち ―人と人をつなぐ愛の物語―』
TVerにて配信中
出演:相葉雅紀、上戸彩、仲野太賀、えなりかずき、角野卓造、中田喜子、野村真美、藤田朋子、川﨑皇輝(少年忍者/ジャニーズJr.)、深田竜生(少年忍者/ジャニーズJr.)、小林綾子、船越英一郎、坂本冬美、 一路真輝
作:山本むつみ
演出:清弘誠
プロデューサー:石井ふく子
製作著作:TBS
©︎TBS
公式Twitter:@hitoribotchitbs

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