『クロちゃんずラブ』を傑作にした野村周平の怪演 漂う哀愁はまるで『男はつらいよ』?

『クロちゃんずラブ』を傑作にした野村周平

 お笑い芸人・クロちゃん(安田大サーカス)の誕生秘話を、野村周平主演でドラマ化したParaviオリジナル 人生ドラマ劇場『クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~』が配信中だ。クロちゃんを演じる野村の憑依ぶりが想像以上で、良い意味で気持ち悪くも切ない名作が完成し話題を呼んでいる。

 これまで数々のテレビ企画などで、モンスター芸人と取り沙汰されてきたクロちゃん。クロちゃん本人の他、歴代マネージャー、仲の良い芸能人、更には元彼女など、関係者への30時間を超えるインタビューを重ね、そこから浮かび上がってきた驚愕のエピソードを元に、まるでフィクションのようなクロちゃんこと黒川明人の全てをドラマ化。高校生時代から安田大サーカスとして人気者になり、初めての彼女ができた20代までの半生が全5話で描かれる。毎回1人の女性に恋をし、その愛嬌と異常なまでの行動力で、最初は意中の女性の好感を得るが、虚言癖の露呈や奇行に走るなど間違った方向の頑張りによって自滅し、毎回フラれてしまう。

【予告】『クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~』

 今作を名作たらしめたのは、なんと言っても、クロちゃん役を演じる野村周平の怪演にある。当初キャスティングが発表された時に、あのクールで硬派なイメージの野村がクロちゃん役を演じるとはどういうことだと、美化しすぎという声もあった。お笑い芸人の伝記物でよくあるのは、2015年に日本テレビで放送された『史上最大のさんま早押しトーク』内ドラマで、若き日のさんまを菅田将暉が演じたり、2021年の『志村けんとドリフの大爆笑物語』(フジテレビ系)で、志村けんを山田裕貴が演じたように、ビジュアル的にデフォルメ化したレジェンド芸人たちの青春劇に仕立てる作品が多い。しかし野村は良い意味で期待を裏切り、クロちゃんというエキセントリックなキャラそのままを見事に演じている。

 甲高い口調はもちろんのこと、ぶりっ子の仕草をベースに、表情やリアクションひとつひとつにクロちゃんが完全憑依。言い訳する時の目線を合わせずにツーンとした表情で話したり、訴える時の泣きづら、真剣に話す時の眉を上げたり眉間に皺を寄せ瞼を小刻みに動かす表情、振られた時の一線を超える恫喝、捨て台詞の嫌味ったらしい表情、そしてキスの気持ち悪さなど、事細かにクロちゃんを再現。さらに、回を増すごとにムチムチしていく体型が絶妙な気持ち悪さを増長していく。つい最近まで、ドラマ『闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん』(TBS系)での残虐非道の半グレリーダー・象山彪役を演じていた人とは思えないぶりっ子演技だが、ある意味どちらもクレイジーな役ではある。なので、仕送りさせることが親孝行と考えるところや、恋敵が現れるとデマを流し、フラれた後の捨て台詞など、いかにもクロちゃんらしいエピソードを演じ、「野村演技がうまいな」「嫌な役をさせられているな」というような感想ではなく、「クロちゃん何やってるんだよ」と普通にイラッとしまうし、キスシーンも、素顔はかっこいい野村にも関わらず、仕事とはいえクロちゃんとキスするなんて女優さん大変だなと思わせてしまうほど。

 もはや、ドラマ『裸の大将』で、実在の人物である山下清画伯演じる芦屋雁之助が山下本人と世間に思われたような領域へ達したといっても過言ではない。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる