中村明日美子原作ドラマ版は重厚なサスペンスの仕上がりに 『ウツボラ』を覆う人間の熱

 WOWOWで放送・配信されている連続ドラマW-30『ウツボラ』は謎が謎を呼ぶサスペンスドラマだ。(※現在、第1話がYouTubeで無料配信中

 物語は雑居ビルの屋上から藤乃朱(前田敦子)が飛び降りる場面から始まる。朱の携帯電話に残されていたのは小説家の溝呂木瞬(北村有起哉)と妹の三木桜(前田敦子)の連絡先のみ。溝呂木と朱は一夜を共にしており、溝呂木が連載している小説「ウツボラ」は、朱の小説を盗作したものだった。

 しかし桜は、溝呂木が盗作したことを知った上で、朱の残した原稿を渡し「“私たち”で」「『ウツボラ』を一冊の本にしましょうよ」と誘惑する。

 原作は中村明日美子が2008年から2012年にかけて『マンガ・エロティクス・エフ』(太田出版)で連載していた上下巻のコミックス。

 劇場アニメ化されたBL漫画『同級生』(茜新社)や、アニメ監督の幾原邦彦が原作を担当する『ノケモノと花嫁』(幻冬舎)といった作品を手掛ける中村は、繊細な作画とコマ割りを用いて、エロティックなストーリーを紡ぐ漫画家だ。

 今回の『ウツボラ』は、小説家の榎田ユウリと共著の作品『先生のおとりよせ』(リプレ、榎田は小説、中村は漫画・挿絵を担当)に続く中村作品2作目のドラマ化となる。2022年に放送された『先生のおとりよせ』(テレビ東京系)は、中村と榎田をモデルにしたかのような官能小説家の榎村遥華と漫画家の中田みるくが「おとりよせ」した料理を毎週堪能するグルメドラマだ。

 ドラマでは榎村を向井理が演じ、中田は『ウツボラ』で溝呂木を演じている北村有起哉が担当している。

 劇中に登場する作家を「作者の分身」と捉えるのは安易な発想かもしれないが『先生のおとりよせ』の中田を北村が演じていたことを踏まえた上で『ウツボラ』の溝呂木を観ると、劇中で語られる創作論がより切実に響いてくる。

 一方、前田敦子が1人2役で演じる朱と桜は、創作のインスピレーションを与えてくれるミューズ(芸術の女神)だが、盗作を進めることで溝呂木を破滅させるファム・ファタール(運命の女)でもある。

 興味深いのは、第1話と第2話の冒頭で描かれる、朱と桜が桜の下で鏡を見るようにお互いを見つめ合う場面。桜の言う「私たち」に、死んだ朱が含まれていることは明らかで、桜が朱に対して何か特別な感情を抱いていたのではないかと想像させる。

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