『100万回 言えばよかった』に『6秒間の軌跡』も ドラマのアイデアに「幽霊譚」が定着?

 近年のテレビドラマでは、現代的な物語にSFやファンタジーの要素を加えたものが増えている。その時に付与されるアイデアでもっともポピュラーなのが、主要登場人物2人の心と身体が入れ替わってしまうという「入れ替わり」と、同じ時間を延々と繰り返す「タイムリープ」だが、新たに定着しそうなのが「幽霊譚」である。

 2023年冬クールのドラマでは『100万回 言えばよかった』(TBS系/以下『100万回』)と『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系/以下『6秒間の軌跡』)という2作の幽霊譚が制作された。

 安達奈緒子が脚本を担当した『100万回』は、ある事件に巻き込まれて命を落とした鳥野直木(佐藤健)と婚約者の相馬悠依(井上真央)、そして直木の存在を感知できる刑事・魚住譲(松山ケンイチ)の物語だ。

 物語は、直木が巻き込まれた事件の犯人を魚住が追う刑事ドラマと、直木が悠依を見守るラブストーリーが同時に進んでいく。幽霊となった直木は魚住を通じて悠依とコミュニケーションを取ろうとするため、直木の言ったことを魚住が悠依に伝えるという伝言ゲーム的なコミュニケーションが展開される。また、物語が進むに連れて他の幽霊が登場したり、口笛や静電気を通して直木が悠衣に意思を伝えたり、直木が魚住の身体に取り憑いて、自分の意思で行動したりする場面が登場する。つまり、直木が幽霊化した自身の状況を把握し何ができるかを探っていくという、幽霊という概念の謎を探っていく姿がゲームのように描かれていた。

 一方、橋部敦子が脚本を担当した『6秒間の軌跡』は、花火師の望月星太郎(高橋一生)と突然、弟子入りしてきた謎の女性・水森ひかり(本田翼)、そして数カ月前に亡くなり、なぜか星太郎だけに見える幽霊の父親・望月航(橋爪功)の3人を軸にしたヒューマンドラマだ。

 住み込みで働くひかりと引きこもり気質の星太郎を幽霊の父親が見守る様子は、『時間ですよ』(TBS系)や『寺内貫太郎一家』(TBS系)といった久世光彦演出、向田邦子脚本のホームドラマを思わせるが、父親が亡くなっていることを踏まえると、少子化の時代を象徴するホームドラマとも言えるだろう。

 幽霊の父は息子の星太郎にしか認知できず、星太郎がひかりに父の言ったことを伝えるというやりとりが作品の肝となっていた。その意味で『100万回』と同じ伝言ゲーム的な面白さのある作品だったが、本作の独自性は父の幽霊が“もう一人”登場すること。実は初めに登場した父の幽霊は、星太郎の願望が作り出した「都合のいい幻想」で、2番目に登場する父こそが「本物の幽霊」だったことが後に明らかになる。幽霊のあり方を、人間の作り出した「都合のいい幻想」と「本物の幽霊」に分けて登場させたのが『6秒間の軌跡』のユニークなところである。

 どちらの作品にも共通するのは、意思疎通できない生者と幽霊の間に立つ人間が登場し、伝言ゲームのようなコミュニケーションが展開されることだろう。また、謎だらけだった幽霊の設定が、話が進むに連れて明らかになるという展開も共通するところで、やはり、どちらの幽霊もゲーム的で、軽い扱いとなっている。

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