『ブラッシュアップライフ』最大の“カタルシス”はプリクラ合わせ ドラマ史に刻まれた品格

 第1話のコンビニ前での3人の「どうでもいい雑談」が“予告”したとおりに、ラストシーンでは98歳になった麻美、真里、夏希、美穂の4人が同じ「ハイテク老人ホーム」で暮らし、フリーザポッドみたいに浮く車椅子に乗ってJ-POPを口ずさんでいる。4人があの後、結婚や出産を経たのか否かについては語られない。そして、麻美と幼なじみたちとの会話にはいっさい「恋バナ」が出てこない。こうした「恋愛至上主義の終焉」を知らせる作劇も、今の視聴者のニーズを熟知して反映しており、「『かくあらねばならぬ』からの解放」を実現させていた。

 人生3周目で、麻美が自分のタイムリープ人生から着想し、プロデューサーとして初めて実現させた劇中ドラマ『ブラッシュアップライフ』の台本打ち合わせのシーンが、何度も効いてくる。脚本家とチーフ演出は、麻美が作った原案のままでは「地味」だと言う。「死んでしまった親友の命を救うとか」「大勢の命を救うとかね」「救世主になるぐらいにしたい」「飛行機事故」など、ベタに“映える”「カタルシス」をドラマに組み込むことを、プロデューサーの麻美は要求される。そして、臼田あさ美主演ドラマ『ブラッシュアップライフ』は、最初の企画書からは程遠いドラマに仕上がった。

 この「ベタ映えカタルシス」。第7話までは「そういうマーケティング理論に則った『派手な見せ場』は、このドラマにはありません」という、逆説的な「宣言」として機能していた。しかし第8話で、真里が孤軍奮闘しながらパイロットとして夏希と美穂の命を救うミッションに挑み続けていることが明らかになるや、この「ベタ映えカタルシス」が「予告」として機能してくるのが面白い。

 そして、予告どおりに最終話でパイロットになった麻美と真里が、自らの操縦で親友の命を救い、さらに大勢の命を救うが、それでも、『ブラッシュアップライフ』の最大の「カタルシス」は、あくまでも「プリクラ合わせ」のシーンにある。「パイロットになって飛行機事故を回避する」のはあくまでも手段であり、最大の目的は「夏希と美穂に生きていてほしい、幸せでいてほしい。そしてまた4人でどうでもいい雑談をしたい」なのだから。

 「タイムリープを繰り返し、来世でも人間になるために徳を積む」という壮大なファンタジーの顔をして始まったこのドラマ。しかしその結末は、「来世がどの生物でもいいから、身の回りの人々の幸せと、それを願える自分、そしてささやかな日常を守りたい」というものだった。どんな仕事をしてもいいし、どんな生き方をしてもしてもいい。来世が何だっていい。ただ、“全世”を賭けて死守したいのは、親友4人組の「どうでもいい雑談」。

 公式サイトのキャッチフレーズでは本作を「地元系タイムリープ・ヒューマンコメディ」と表すに留めている。しかし静かに、そして確かにこれは「青春譚」であり「友情物語」であり、「幸福論」を談じる哲学的作品だった。そんなところも、このドラマの品の良さではないだろうか。

■配信情報
日曜ドラマ『ブラッシュアップライフ』
TVerにて、第1話~第3話+第10話配信中
Huluにて、全話配信中&オリジナルストーリー独占配信中
出演:安藤サクラ、夏帆、木南晴夏、松坂桃李、染谷将太、黒木華、臼田あさ美、鈴木浩介、バカリズム
脚本:バカリズム
演出:水野格、狩山俊輔
プロデューサー:小田玲奈、榊原真由子、柴田裕基(AX-ON)、鈴木香織(AX-ON)
チーフプロデューサー:三上絵里子
企画協力:マセキ芸能社
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/brushup-life/
公式Twitter:@brushuplife_ntv
公式Instagram:@brushuplife_ntv

関連記事