押井守が今の若い監督に望むことは? アニメーション業界における批評の不在を語る

「監督は映画やアニメよりも本を読んだほうがいい」

――最近、劇場でご覧になって印象的だったアニメーション作品はありますか?

押井:私、アニメーション映画は観ないんですよ(笑)。もちろん昔は毎日どころか、1日に2本も3本も観ていた時期もあります。だけど、私は監督になって、特に60歳を過ぎたあたりから、監督は映画やアニメよりも本を読んだほうがいいと思うようになった。とりわけ私なんて、60歳になるまでに一生分どころか、その5倍くらいの映画を観ているからね。観るものはほとんど観ちゃったという感じなんですよ。「こういう映画もあったのか!」と目から鱗が落ちる経験なんて、そんなの10年に1本しかない。それに、上手なものを観てもあまり参考にならないんです。反対にしょうもない映画は、なぜ失敗したのか始まって3分でわかる。それくらい、作品を作るという行為は、地雷原を歩くようなもの。では、踏んではいけないものを避けるためにどうしたらいいかと言ったら、やっぱり勉強するしかない。本をたくさん読んで、いろいろな人とお話しするべきだと思います。私が不満なのは、最近の特に若い監督は全然本を読んでいないこと。「最近何観た?」と聞くとパパッと答えられるのに、「最近何読んだ?」と聞くと「うーん……」となってしまう。本を読んでいなければ、人と喧嘩もできないよと言いたい。論理的に物を考えて喋る能力がなかったら、喧嘩なんかできるわけないじゃん。監督というのは、最終的に不特定多数のお客さんを説得する仕事なんだから。質問とあまり関係ない話になっちゃったけど(笑)。

――いえ(笑)。

押井:要するに、私が最近観た印象に残る映画をスパッと言えない理由は、あまり観ていないからなんです。ただ、1つ挙げるとしたら、原(恵一)くんの『かがみの孤城』という映画。これは観てよかったです。あとは、1月からWOWOWで配信されている『火狩りの王』というシリーズ。これは私が脚本をやっているんだけど、ぜひおすすめしたい(笑)。脚本自体は2年くらい前に書き終わっていたんだけど、思ったより良い出来だったのですごく嬉しかった。

――制作に2年の月日がかかったんですね。

押井:最近はどこも人出不足なんですよ。大変な仕事だってことが知れ渡っちゃって、なかなか人が入ってこない。「あんまり未来もなさそうだし……」って(笑)。今の人って、すぐに将来のことを言うよね。ブラック会社に入っちゃったら終わりとか、そんなことあるわけないじゃん。長い人生で最初につまづいたからって、全て決まっちゃうわけじゃないし、人生は簡単に終わらない。生きることに当事者意識を持ちすぎているんじゃないかなと思う。年上に言わせれば、飯さえ食っていれば絶対にどうにかなるんですよ。お金がなくたって、食べさせてくれるところがあるんだから。そういう意味でも、さっき言った原くんの『かがみの孤城』は、生きる力に関する話なのでおすすめしたい。そんな簡単に「わかった!」とか「よかった!」とか、そういう作品じゃないのよ(笑)。

――批評の大切さをお話しいただきましたが、押井さんが作品を観るときに一番大事にしている部分はどこですか?

押井:それはもう、基本的に言いたいことがあるかないかだけですよ。適当でもカッコよければいいとか、面白ければいいというのは大間違いで、裏づけがなければ面白くなるわけない。デタラメをやっているように見えても、真面目に言いたいことがあれば絶対に伝わるから。飯だったらおいしいかまずいかが大事なわけで、「言い訳の前にうまいものを出せ」という話になるけれど、映画はやっぱり言いたいことがあるかないかで受け取るものが全然違う。だから、上手いとか下手とかは、私はあまり気にしません。小説と一緒。文章が下手な作家は山ほどいる。でも、その中にもやっぱり尊重すべき作家はいるんですよ。お金をもらっている以上、あまり下手じゃまずいんだけど(笑)、言いたいことがちゃんとある作品であれば、もっと頑張ってほしいなと思います。

■イベント情報
「第1回新潟国際アニメーション映画祭」
会期:3月17日(金)〜22日(水)
主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
企画制作:ユーロスペース+ジェンコ
特別協力:新潟市、新潟日報社、新潟県商工会議所連合会、燕商工会議所
後援:外国映画輸入配給協会
協力:新潟大学、開志専門職大学、JAM 日本アニメ・マンガ専門学校
協賛:NSG グループ
上映会場:新潟市民プラザ、開志専門職大学、T・ジョイ新潟万代、シネウィンド
イベント会場:新潟日報メディアシップ、古町ルフル広場、新潟大学駅南キャンパスときめいと
公式サイト:https://niaff.net

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