『舞いあがれ!』第23週担当、佃良太脚本の持ち味は? “状況を作り出す”演出的な手腕

 『舞いあがれ!』(NHK総合)第106話の最後に、舞(福原遥)は御園(山口紗弥加)とふたりで東大阪の町工場をつなぐ会社「こんねくと」を立ち上げた。会社と消費者の間に入るということは会社の利益は仲介手数料から成り立つことになる。広告代理店のようなものであろうか。実績と信頼が積み重なれば成立するが、最初は難しい。パンチングメタルを扱う会社を救うため、試作したランプを大手のインテリアメーカーが目をつけ海外で大量生産したいと言い出したとき、舞は潔く、手放す。彼女の目的は自分が潤うことではなく、あくまでも弱っている町工場をもり立てることだから。たくさんの人にパンチングメタルの製品が行き渡り町工場が活性化することを舞は選んだ。

 そうは言っても、現実社会で、間に入って仕事をしたら、いつの間にか外されているという残念なことはあるもので、要らないと思われてしまった無念さや経済を含めた損失を抱える人たちも現実にはいると思うと、少しばかり苦いものを漂わせながら、こんねくとはあっという間に軌道に乗る。佳晴(松尾諭)と津田道子(たくませいこ)を結びつけたチタン製の指輪が会社の主力商品となった。

 佳晴は怪我によってラガーマンの道を閉ざされたことをきっかけに自信を持って生きることが困難になり、妻も離れていった。津田は御園とは違い、明確に結婚しない意思があったわけではないが家族の介護などにより独身のままだった。

 思うようにはいかずともなんとか生きてきた佳晴と津田がラグビーという趣味を通じて交流を深め、年をとってから一緒に生きていこうと考えることは、寂れた町工場が再生を目指すことにも似ている。残念なことがあっても巻き返すチャンスは誰にもいつでもあることを『舞いあがれ!』は描き続ける。

 佳晴の憩いの場・ノーサイドにはラグビーにまつわるものが飾られている。お好み焼きうめづは勝(山口智充)の趣味で野球に関するものが飾ってある。どちらも同じ趣味、志を持つ庶民たちがひととき集まり楽しく過ごす場所だ。

 第18週、佳晴は、娘の久留美(山下美月)の結婚相手の家との顔合わせをノーサイドで行おうとして、先方の母親(羽野晶紀)に馬鹿にされてしまった。今回は、ノーサイドでラグビーのユニフォームを着てプロポーズ。「ドーベルマン望月の復活」と意気込むも、若い頃と違って「ブルドッグ」だと津田は言うが、それは決して悪意ではない。ふたりの長年の信頼関係による冗談で、たとえいまはブルドッグでも津田は佳晴と一緒にいたら幸せだと感じるのである。久留美といい津田といい、やさしい人たちが寄り添ってくれていて佳晴はなんて幸せ者だろう。

 第18週と第23週の脚本を担当した佃良太は、メインライター・桑原亮子のサブライターとして何週かの脚本を担当するのみならず、全体のプロットづくりにも参加してきた。専門性が高く取材が必要な飛行機の訓練、町工場の製品開発などのエピソードを担当し、情報を伝えることで堅苦しくなりそうなところを登場人物たちのふれあいを盛り込んで柔らかく見せる手腕の持ち主だ。

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