『大奥』が埋める『鎌倉殿の13人』ロス 堀田真由、山本耕史、三浦透子らの安心感

 小栗旬主演で武家政権の基礎を固めた武士・北条義時の生涯を描き、昨年末に惜しまれつつ最終回を迎えた2022年度NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(以下、『鎌倉殿』)。脚本家の三谷幸喜と数々の名優が一年かけて浮かび上がらせたあまりに人間臭い登場人物たちが、視聴者に大きなロスをもたらした。そんな“鎌倉殿ロス”を今、埋めてくれているのが『どうする家康』……ではなく、『鎌倉殿』の最終回から3週間後にNHKドラマ10枠で放送開始となったドラマ『大奥』だ。

 3代将軍・徳川家光の時代に若い男子のみが感染する奇病・赤面疱瘡が流行し、男性の人口が女性の4分の1にまで減少。将軍職をはじめとしたあらゆる稼業が女性から女性へと受け継がれるようになったパラレルワールドを舞台に、美男三千人が集うとされる“大奥”での人間模様を描く本作は、『きのう何食べた?』の作者としても知られるよしながふみの漫画が原作。過去にも他局で一部が映像化されたが、今回は現在放送中のシーズン1と秋に放送予定のシーズン2で全編ドラマ化が決定している。

 漫画の実写化には否定的な声も度々上がるが、『JIN -仁-』(TBS系)や『義母と娘のブルース』(TBS系)など原作がある映像作品で成功を収めてきた森下佳子が脚本を担当していること、また、実力に申し分のないキャストばかりが集まっていることから、原作ファンの間でも安心感が広がっていた。そして、放送が開始された今、想像以上の出来に誰もが驚いている。各将軍の時代をたった数話で描くために展開は早いが、原作の内容を大きく削ることなく、だからといって一つひとつのエピソードが薄まることもない。むしろ、よしながふみがこのパラレルワールドを描くことで伝えたかったメッセージがより濃く、登場するキャラクターの人物像もさらにくっきりと映し出されている。この完成度の高さを構成しているのが森下佳子の鮮やかな構成力と緻密な人物造形、そしてそれを体現する役者陣の濃密な演技だ。

 特に『鎌倉殿』にも出演していたキャストの芝居が非常に見応えがある。まずは『鎌倉殿』では最愛の妻・八重(新垣結衣)を亡くした主人公・義時のもとに嫁いでくる比企家の比奈を好演した堀田真由。八重ロスだ、ガッキーロスだと世間が騒ぐ中での登場は相当プレッシャーだっただろう。だが、堀田の控えめながらも繊細な演技が映し出す、かわいらしいだけではなく、北条家と比企家が対立した際でも気丈に義時を支え続けた比奈の賢妻ぶりに多くの人が惹かれた。

 そんな堀田が本作で演じるのは家光が市中の女性に産ませた娘・千恵。女性としての人生を奪われ、家光の死を偽装するためにその身代わりとして生きることになった千恵は当初とにかく荒々しく、春日局(斉藤由貴)が自らにあてがった美しき元僧侶・有功(福士蒼汰)にも辛く当たる。だが、堀田はそこに見る人の心を大きく揺さぶる千恵の悲痛な叫びを乗せた。その後有功と心を通わせ、少女のような愛らしい表情を見せたかと思えば、母親となるのと同時に将軍としての自覚が芽生え、どんどん凛々しくなっていく千恵の変化を鮮やかなグラデーションで見せた堀田。自身の代表作を更新するとともに、鎌倉殿ロスをも埋めたのだった。

 また『鎌倉殿』の時と同様に真意がつかめず、私たちをハラハラさせてくれたのが山本耕史だ。どんな時も慌てふためくことなく冷静な判断を下す、義時の幼なじみであり盟友である三浦義村の底知れなさも尋常ではなかったが、今回演じる右衛門佐も負けていない。右衛門佐は5代将軍・綱吉(仲里依紗)の御台所から呼ばれたことを機に大奥入りを果たした公家出身の男。公家とはいえ貧しい家の出である右衛門佐は長らく“種馬”としての扱いを受けており、大奥では身体を使わずに成り上がろうという野心に燃える役どころだ。

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