『アントマン』第3作、北米V2も数字に異変 ヤク中の熊が大暴れ『Cocaine Bear』が話題
あなたは『Cocaine Bear(原題)』を知っているか。2月24日に北米公開されたこの作品は、27日までの北米週末興行収入ランキングにNo.2で初登場。2週目の『アントマン&ワスプ:クアントマニア』には勝てなかったものの、現地の映画ファンの間で大きな話題を呼んでいる。
「コカインをバキバキにキメた熊が暴れまわり、警官や犯罪者、ハイキング客たちに襲いかかる」。本作のあらすじはこの一言で十分なのだが、何よりも驚くべきは、これが実話にインスパイアされた物語だということだ。
1985年、テネシー州で麻薬密輸犯の死体が発見された。密輸に使用していた飛行機が事故を起こしたため、やむなくパラシュートを装着して脱出したものの、運悪くパラシュートが開かなかったのだ。後日、ジョージア州で一頭の熊の死体が発見される。密輸犯の運んでいたダッフルバッグに入っていた34キロのコカインを食べたことが原因だった。
では、もしもこの熊がコカインを食べても死亡せず、むしろハイになって人に襲いかかったら? このアイデアにのっとり、麻薬密輸の失敗や、熊がコカインを食べるという事実をそのままにホラーコメディとして仕立てたのが、この『Cocaine Bear』なのである。
監督は『ハンガー・ゲーム』『ピッチ・パーフェクト』シリーズでも知られる俳優・映画監督のエリザベス・バンクス。製作は『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)のフィル・ロード&クリス・ミラー、脚本は『ザ・ベビーシッター ~キラークイーン~』(2020年)のジミー・ウォーデンが執筆した。
本作は北米公開後3日間で2309万ドルを記録。事前の予測では1500~1700万ドルとみられていたため、配給のユニバーサル・ピクチャーズが想定した以上のスタートダッシュとなった。海外市場では530万ドルを記録し、世界累計興行収入は2839万ドルとなっている。製作費は3500万ドルと抑えめだから、早くも黒字化が視野に入ったところだ。
また、Rotten Tomatoesでは批評家スコア70%・観客スコア75%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「B-」評価と、賛否の分かれやすいホラージャンルでは上々の評判。興行・評価ともに「動物パニックものはキングコングかサメしか当たらない」との風潮もあるという業界では、まさに異例の滑り出しとなった。
公開初週とあって楽観視はできないが、本作のヒットはいくつもの要因に支えられている。『ジ・アメリカンズ』(2013~2018年)のケリー・ラッセルや『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年)のオールデン・エアエンライク、『オビ=ワン・ケノービ』(2022)のオシェア・ジャクソン・Jr.、2022年に逝去した名優レイ・リオッタら充実の俳優陣を揃えながら、あくまでも「主役は熊」というスタンスを貫いたプロモーションはそのひとつ。パニックホラーに徹さず、バカバカしいコメディの要素を押し出したことも功を奏した。
近年、優れたフィルムメーカーによる小~中規模のオリジナルなスリラー/ホラーを多数手がけてきたユニバーサルは、本作でも再び成功を収めることになりそうだ。口コミ効果も大いに期待されており、北米興収は6000万ドルを超えるとの予測もある。
一方、第1位の『アントマン&ワスプ:クアントマニア』はさほど喜ばしくない結果となった。無事に2週連続で首位を守ったものの、3日間の成績は3220万ドルで、1億ドル超えを記録した前週からの下落率は-69.7%。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)史上ワーストの下落率となった。
これまで、2週目の下落率が最も大きかったのは『ブラック・ウィドウ』(2021年)の-67.8%だが、同作はコロナ禍の影響もあり、劇場公開の同日よりディズニープラスでの有料配信が行われた。しかし本作は純粋に劇場公開のみ、しかも征服者カーンの物語を開幕するフェーズ5の重要作とあって注目度は相当高いはずだったのだ。
もともとスーパーヒーロー映画は公開直後にファンが集中するため、2週目の下落率は大きくなる傾向にある。また、『アントマン』シリーズ自体がMCUの中ではさほど興行的に強くないことも事実だ。しかし、等身大の強盗コメディ路線だった前2作から一転、突如SF戦争映画にシフトチェンジしたこと、そのうえ批評家の評価が低かったことは今回ならではの大きな要因だろう。