『舞いあがれ!』古舘寛治が物語の“身近さ”を生む 笠巻の魅力を引き出す自然な演技
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』で見せた、日常生活そのものを思わせるナチュラルな演技には脱帽する。2017年放送の『アシガール』(NHK総合)では黒島結菜演じる主人公の父親役を演じ、「唯パパ」として視聴者に親しまれたが、『ちむどんどん』ではフラッと一人でお店へ入り、黙々と食事をとる客として登場。「じゅーしー?」と知らない単語を問いかける話し口や注文の様子は、街で見かけるごく普通の客の姿そのものだ。古舘が発する「あっ、うまかったよ」という何気ない一言に、ヒロインたちは安堵の表情を浮かべる。古舘の何気ない演技が光るからこそ、「うまかったよ」という一言の重要さが沁み渡る。
『舞いあがれ!』でも古舘寛治の“職人芸”が見られるか 朝ドラ連続出演の信頼と安心感
前作『ちむどんどん』(NHK総合)のクライマックスでサプライズ的に登場し、『舞いあがれ!』ではレギュラーメンバーとして出演する古…
NHK人物録に掲載されているインタビューによると、古舘は「演じたり、嘘をついたり、ふりをしたりすることなく、役柄としてそこに生きているつもりで演じている」と語っている。(※)古舘は本読みの際も、相手と普通に会話するように台本を読むという。それを知ると、彼の演技への意識がそのまま強みとして、役柄の“普通”さをもたらしているのだと納得できる。
『舞いあがれ!』第21週で古舘が演じる笠巻は引退を決意した。第21週での同僚たちとのやりとりも心惹かれるが、笠巻の魅力は家族と向き合う場面で光っていた。第98話では腰を痛め、娘・佐知子(吉田真由)が病院に駆けつける。「おう、すまんな」「悪いな」「大丈夫や。迷惑かけへん」という言葉には娘に気を遣う、笠巻なりの優しさが感じられた。笠巻は、佐知子が高校生ぐらいのときからほとんど喋っておらず、佐知子の息子・正行(高田幸季)も無口な祖父を怖がっていた。古舘がインタビューで語ったように、この場面での古舘は、孫や娘と向き合う「笠巻」としてその場に存在している。「笠巻」のリアルな感情に心を掴まれ、見ているこちらも自然と笑みが溢れてしまった。
IWAKURAを引退した笠巻だが、オープンファクトリーに快く参加しているのを見る限り、東大阪の町工場のために奮闘する舞の取り組みに関わり続けるはずだ。引退し、家族サービスに専念すると思しき笠巻を古舘が今後どう演じるのか、引き続き楽しみだ。
参照
※. https://www2.nhk.or.jp/archives/jinbutsu/detail.cgi?das_id=D0009071398_00000
■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK