吉原光夫、素顔は『どうする家康』『ガンニバル』とは別人? 努力を積み重ねた“命”の俳優
そんな吉原光夫が新たな舞台に挑戦する。2014年に初演、2016年に再演されて演劇界に衝撃を与えた『おとこたち』(作・演出=岩井秀人)のミュージカル版である。4人の男たちの20代から80代までの“ひでぇ人生”を描く本作で、吉原が担うのは有能かつプライドも高い製薬会社の営業マン・鈴木。腕力ではなく言葉とステイタスとで家族を支配し、友人たちをどこか見下しているような男だ。
何度か稽古場で取材をしたが、そこには今まで観たことのない彼の姿があった。人生の成功者として自信に満ち溢れていた男が年を取り、家族からは疎まれ、街で若者に馬鹿にされたと思い込み突然キレる。スナックでは元同級生たちと下世話な話で盛り上がるーー。そのスケール感から、これまでの舞台では“神”や“国”と対峙する役柄も多かった吉原が、半径5mの小さな世界で人生を彷徨う男を演じる姿には何とも言えない哀しみと可笑しさが漂っていた。重ねてになるがこんな吉原光夫はこれまで見たことがない。
稽古中に役や場面の解釈でノッキング(違和感)が起きると、演出家や共演者に「ちょっといいですか」と意見を求め、自身の考えも伝えていく姿には彼が“自分以外の人物を演じること”への畏敬と覚悟がうかがえる。
ある時期エンタメ界で良く使われた“カメレオン俳優”との表現がこれほどまで似合わない俳優は他にいない。愚直に、そして真摯に役と作品に向き合い、観る者の心に確実にくさびを打っていく俳優・吉原光夫が見せるさまざまな“命”を先に挙げた映像作品や舞台であなたの心にも刻んでほしい。
■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK