『舞いあがれ!』が繰り返し描く失敗と挫折 生きていれば何度でも立ち上がれる

 悠人はスミちゃんほど、自分の異変を隠すのが上手くはなかった。実家には寄りつかなくとも隣の「お好み焼き屋 うめづ」に通い続け、自分を心配するめぐみや舞の電話には出ずとも近所の公園にふらふらと辿り着いた。あまりにも分かりづらいけれど、悠人は悠人なりのヘルプを出してくれていたから周りも助けることができたのだ。

 それでも、めぐみや舞から差し伸べられた手を一度は振り払おうとした悠人だったが、かつてスミちゃんを助けられなかった久留美が「大事な人がしんどい時に何もできないのってほんまに辛いんですよ」とその気持ちを代弁してくれた。佳晴や貴司のように、悠人にも「あの時、生きてくれていたから」と思ってくれる人が大勢いる。一度は失ってしまった仕事も信頼も取り戻せる。生きてさえいれば。

 同時に、死してもなお取り戻せるものを本作は見せてくれる。IWAKURAで飛行機の部品を作ることと、悠人とわかり合うこと。浩太はそのどちらも生きているうちに成し遂げることができなかったが、舞とめぐみ、そして仲間たちの手でサンプルではあるが前者の夢を果たすことができた。悠人とも生前に書き記していた“歩みノート”を通じて、ようやくわかり合うことができたともいえる。

 誰も不憫にしない、その優しさに私たちは日々救われている。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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