『舞いあがれ!』悠人の思いは浩太にも届くはず “告白”を通して変化を迎えた3組の親子
ついに、悠人(横山裕)の本音が聞けた。横山裕による迫真の、そしてそれを受ける福原遥と永作博美の自然な泣きの演技に、思わず観ているこちらがもらい泣きしてしまいそうだった『舞いあがれ!』(NHK総合)第88話。ここ数週にわたって描かれてきた、梅津家、望月家、そして岩倉家における“親子”の描かれ方が興味深い。
梅津家といえば、最近は貴司(赤楚衛二)がようやく一つの場所に落ち着き(デラシネ)、短歌で賞をとるなど結果を残すことができた。両親の勝(山口智充)と雪乃(くわばたりえ)は、特に放浪期の序盤で勝が「好きにさせよう」と雪乃を納得させ、自分たちから子供に対して距離をとったことが印象的である。雪乃も心配こそはしたが、便りが届くようになってからは安心したり、貴司が短歌を書き始めた頃から彼の興味関心を理解しようと、自分も雑誌を買うなどして調べたりと、かなり協力的かつ彼の夢に賛成する姿勢が印象的だった。そんなふうに好きにさせてくれた両親だったからこそ、貴司は受賞の祝賀会で感謝の気持ちを初めて“告白”する。その言葉に思わず泣いてしまう2人。梅津家の親と子の距離感は、物理的にはこれまでずっと遠かったが、心理的には互いに寄り添ってきたことがわかるのだ。
望月家は久留美(山下美月)の婚約の一件で第18週に大きくフィーチャーされた。久留美が子供の頃から甲斐性のなかった父・佳晴(松尾諭)だが、彼女が大人になった今でも相変わらず手に職がつかない。それが久留美と八神(中川大輔)の婚約にも影響を与えてしまったことは、ある意味すごく現実的で切ない展開であった。しかし、この出来事をきっかけに久留美と佳晴の親子の絆が深まる。お互い今も相変わらず同じアパートの一室で暮らしているから、毎日顔を合わせているし会話もあったはず。そういう点では梅津家より物理的な距離は近かったが、心理的な距離が遠かった。いつだって娘の自慢になりたい父親と、父親を恥ずかしく思う娘。大人になった久留美と佳晴はそういった関係性を長年保ってきていたのだ。しかし、八神の母・圭子(羽野晶紀)に父親を否定されて久留美の本音が飛び出す。
「反対されんのはええねん。けど……お父ちゃんのことであんな言われ方されるとはなぁ……」
「土下座なんてしてほしなかった」という言葉も続ける彼女は、思えば子供の頃から甲斐性のない父親を“否定”したことはなかったように感じる。いつだって彼のありのままを受け入れてきたのだ。望月家はそういった精神的な成熟において、久留美と佳晴の立場が逆転している。しかしこの親子も、子供の“告白”によって和解することができたように思えるのだ。