『TRIGUN STAMPEDE』『PUI PUI モルカー』など、優れた映像演出に共通する作家のルーツ

 暗闇に浮かぶ星がやがて輝きを増して回り出し、星座を形作って踊り始める。生々流転の様を表すようなアニメーションが、1月からスタートしたTVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』のエンディングで流れている。手掛けた矢野ほなみは、『骨噛み』が4大アニメーション映画祭のオタワ国際アニメーション映画祭で短編部門のグランプリに輝いた気鋭のアニメーション作家だ。こうしたアートに寄った経歴や作風の持ち主が、TVアニメの世界で活躍する姿を、普通に見かけるようになってきた。

 2021年1月にTVに登場するや、大評判となってグッズも売れに売れているアニメーションに『PUI PUI モルカー』がある。手掛けた見里朝希監督は、武蔵野美術大学を経て東京藝術大学大学院映像研究科のアニメーション専攻を修了したクリエイター。修了作品の『マイリトルゴート』は世界の映画祭で上映されて入賞も果たしたが、内容は児童虐待を扱ったハードでシリアスなものだった。

 その見里監督がTVアニメの世界に登場したから、経歴を知っている人は驚いた。もっとも、繰り出された『PUI PUI モルカー』はモルカーたちの愛らしい表情や動きと、少しばかり風刺を含んだ内容が老若男女を問わず大受けした様子。人形を使ったアニメーション自体、合田経郎監督の『こまねこ』などで子供を中心に親しまれていて、見里監督が東京藝大院であることは気にされなかった。

【公式】『こまねこ はじめのいっぽ』 / Komameko -the first step-

 評判を受けて『PUI PUI モルカー』の続編が作られることになった時、見里監督が原案・スーパーバイザーに回り、小野ハナ監督が起用された時も、すでに各話の絵コンテを手掛けた人としてスムーズに移行が行われると普通の人は見ただろう。もっとも、小野監督が第69回毎日映画コンクールで大藤信郎賞を受賞した『澱みの騒ぎ』を観たことがある人は、虐待からの殺人といったハードな内容を淡々と描いた作風と、モルカーの愛らしさが結びつかなかったかもしれない。

澱みの騒ぎ(小野 ハナ / Onohana)

 見里監督も小野監督も、商業作品として依頼されたことにきっちりと答えただけとも言える。VOCALOID向けの絵を描いて評判になったこともある小野監督にとっては、一般性を持ったフィールドに帰ってきただけとも言えそうだが、『モルカー』の端々に滲む過去の映像作品へのリスペクトや、人間性を問うようなエピソードには、“アートっぽさ”が感じられなくもない。そうした異質さが新鮮味となって視聴者を惹きつけたのかもしれない。

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 『TRIGUN STAMPEDE』のエンディングに至っては、まさに矢野ほなみが持ち味とするビジュアルを見せるものになっていた。同じ1月スタートのTVアニメ『お兄ちゃんはおしまい!』のエンディングが、音楽に合わせてリズミカルに動く映像で“ハルヒダンス”的なインパクトを与えてくれるのとは対極にあるアニメーションとも言える。人によってはヴァッシュなりニコラス・D・ウルフウッド、メリル・ストライフ、ミリオンズ・ナイブズといったキャラクターを見せてくれれば嬉しかったという人もいそうだ。

TVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』ノンクレジットED映像

 ただ、『TRIGUN STAMPEDE』はルックを内藤泰弘による原作漫画からも、1998年に作られたTVアニメからも変えて、フル3DCGによるモデリングと、空間を滑るように動くモーションが特徴の、まったく新しいアニメとして登場してきた。そうした“挑戦”の延長として観た時に、ヴァッシュとナイヴズの数奇な運命を表現するような詩情に溢れたエンディングアニメーションはしっくりと収まる。

 矢野ほなみも小野ハナ監督と同じ東京藝大院アニメーション専攻修了生だ。修了作品『染色体の恋人』が評価されて世界の映画祭に出品された。その作風は、『TRIGUN STANPEDE』のエンディングと同様に点描を動かし表現するものだった。ハイエンドな3DCGアニメから手作り感を残したアートアニメへと流れることで、アニメの内容に沸き立った気持ちがクールダウンされて続きへの期待を誘われる。そうした期待もあっての起用だったのかもしれない。

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