『THE LAST OF US』は新たな地平を拓く? ゲーム版にはなかった俯瞰の視点

 これだけの才能が揃えば当然、仕上がりも堅調だ。第1話は日常が非日常へと転じる巻頭部のパニック描写にゲーム版のファンも身を乗り出すものがあり、マンダロリアンスーツを脱いでも抑制的なペドロ・パスカルと、原作以上に役を膨らませたサラ役ニコ・パーカーのやり取りは感動的だ。ハードの性能向上によってゲームの映像表現が飛躍し、片やよく出来たゲームのムービーシーンのような“実写映画”が大ヒットする今日、ゲーム原作映像作品の新たな地平を拓くのは、優れたナラティブと名優たちによるパフォーマンスなのかもしれない。

 クレイグ・メイジンによる脚色は原作に忠実でありながら随所に世界観を拡張補強するアレンジが施されており、ゲームファンにも新鮮な驚きがあるはずだ。第1話のオープニングに設定されているのはプラハの春、キング牧師暗殺など政治的な事件が相次いだ1968年(ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が公開された年でもある)。劇中のパンデミック発生年は9・11から間もない2003年で、物語が進行するタイムラインは私たちが今を生きる2023年だ。プレイしているだけではイマイチ実態が掴めなかったFEDRAやファイアフライといった組織の説明に時間がかけられ、本作がパンデミック後の分断と対立という現在(いま)のアメリカの景色を描こうとしていることが伺える。

 この“俯瞰”はゲーム版にはなかった視点だ。原作ゲームは三人称視点の1人用ゲーム。プレイヤーは各地に残された遺留物(日記やメモ)から在りし日の文明社会や生き伸びた人々の行動を窺い知るばかりで、崩壊した世界でいま何が起こり、誰がどうしているのか把握しきることはできない。物事は常に一方向の面からしか見ることができず、それはこの旅路におけるジョエルとエリーの関係性も象徴している(ちょっと気は早いがいずれ製作されるであろうシーズン2『The Last of Us PART II』の重要な主題でもある)。幾人もの視点を介することができるTVシリーズというフォーマットによって、『THE LAST OF US』は2020年代に新たな物語を見出すかもしれない。この道をかつて通ってきた人も、初めてこの旅路に参加する人も行きつく先に何を見るのか。旅はまだ始まったばかりだ。

■配信情報
『THE LAST OF US』
U-NEXTにて独占配信中
脚本・製作総指揮:クレイグ・メイジン、ニール・ドラッグマン
監督:クレイグ・メイジン、ニール・ドラッグマン、ピーター・ホアー、ジェレミー・ウェッブ、ヤスミラ・ジュバニッチ、リザ・ジョンソン、アリ・アッバシ
出演:ペドロ・パスカル、ベラ・ラムジー、ガブリエル・ルナ、アナ・トーヴ、ニコ・パーカー、マレー・バートレット、ニック・オファーマン、メラニー・リンスキー、ストーム・リード、マール・ダンドリッジ、ジェフリー・ピアース、ラマー・ジョンソン、キーヴォン・ウッダード、グレアム・グリーン、エレーヌ・マイルズ、アシュレー・ジョンソン
日本語吹替キャスト:山寺宏一、潘めぐみ、高橋広樹、田中敦子、朴璐美
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公式サイト:https://www.video.unext.jp/title_k/the_last_of_us

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