2023年は「監督・山田尚子」が日本中に届く? 『きみの色』で国民的作家へ

 2023年も精力的な活動が予定されている。1つは『Garden of Remembrance』で、こちらは15分ほどの短編アニメーション。日本においては、商業監督が短編アニメーション、特に芸術性を競うようなアートアニメーションを制作することは稀だ。アニメ大国と呼ばれている日本だが、それは商業作品の場合であり、短編などのアートアニメーションは、なかなか商業的展開と結びつかない上に、壁があるのが現状だ。

 だが短編作品は短いからこそ、自身の作家性を強く発揮し、さらに実験的手法を取れる形態でもある。湯浅政明監督も『キックハート』を制作しているほか、ドワンゴとスタジオカラー主催の『日本アニメ(ーター)見本市』にて発表された短編や手法が、長編の商業作品に生かされた例もある。山田が短編に取り組むということは、それだけ自身の作家性と技法を鍛える意味合いでも重要な意味合いがあり、日本のアニメーターや監督が、その土壌からなかなか挑戦できないことに進んで向かっていくことになる。

映画『きみの色』スーパーティザーPV

 そして2023年秋公開の『きみの色』だ。現段階で発表されていることは少ないが、吉田玲子、牛尾憲輔が参加し、チーム山田が再び集結することが明らかになっている。ここで注目すべきが、STORY inc.が企画・プロデュースを担当すること。『天気の子』『すずめの戸締まり』などをプロデュースした川村元気などが携わるプロジェクトであり、東宝ラインナップにも掲載されている。つまり、いよいよ“大作”に挑戦するというわけだ。

 ここまで振り返ってもこの2年だけで、あまりにも振れ幅の広いフィルモグラフィであることが理解できるだろう。馴染みのスタジオを離れ、商業的なテレビアニメ、テレビCMという超短編、単発的な商業的短編アニメ、商業から少し離れた短編アニメ、長編大作アニメ。これらがこの2年間で登場していることは、まさに精力的という言葉でも言い表せないほどだ。ファンにはうれしい悲鳴である。

 もはや過去のフィルモグラフィを見ても、山田尚子の実力を疑う声はないだろう。あとは一般の方の知名度だけだ。数々の挑戦の集大成となる2023年の作品を経て、おそらく日本中が山田尚子の名前を覚えていく……そんな日が近づいていることを感じている。

■公開情報
『きみの色』
2023年秋、東宝系にて全国公開
監督:山田尚子 
脚本:吉田玲子
音楽:牛尾憲輔
企画・プロデュース:STORY inc.
制作・プロデュース:サイエンス SARU
配給:東宝
製作:「きみの色」製作委員会
©2023「きみの色」製作委員会

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