『6秒間の軌跡』高橋一生&橋爪功が会話劇で魅せる 橋部敦子脚本のオフビートな空気感

 静寂に包まれた、寒くてなんだか寂しい冬の夜に心が温まる連ドラ『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系)が始まる。

 感染予防の観点から外出や人との接触が制限されたコロナ禍。打撃を受けた業界は数知れず、その中の一つに毎年夏を盛り上げてくれる花火業界があった。全国各地の花火大会やお祭りが中止となり、売り上げが激減。経営が悪化し、事業規模の縮小や花火師たちの解雇などを余儀なくされた会社もあったという。本作はそんな苦境にあえぐ花火業界が舞台。地方都市で代々続く煙火店(=花火店)の四代目となる父・望月航を橋爪功、その息子・星太郎を高橋一生が演じる。

 この2人といえば、2021年上演の舞台『フェイクスピア』での公演が記憶に新しい。同作は野田秀樹率いるNODA・MAPの第24回公演として上映されたもの。日本三大霊場の一つである青森・恐山を舞台に、口寄せを行うイタコ見習いのアタイ(白石加代子)と、彼女を訪ねてきた青年・mono(高橋一生)と老人・楽(橋爪功)による、“コトバ”にまつわる物語が展開された。

 自分は何者で、恐山に来た目的は何だったのか。のちに明らかになるのだが、monoは若くして亡くなった楽の父親。その真実と嘘のない“コトバ”にたどり着くまでに、アタイが呼び寄せた様々なものに憑依する高橋と橋爪の一見奇妙な対話から、ラストで見せる親子のやりとりまで何もかもが圧巻だった。

 この共演がきっかけで、橋爪と高橋は意気投合。特に橋爪は1月12日放送の『徹子の部屋』(テレビ朝日系)でも語っていたが、ほぼ40歳年下の俳優である高橋にかなり惚れ込んでおり、「一生とドラマをやりたい!」と本作の中込卓也プロデューサーに伝えたという(※)。高橋がこれを快諾したことで、再共演が実現した。しかも、今回は橋爪が父、高橋が息子役を務める2度目の“親子タッグ”となる。

 だが、物語は橋爪演じる航がある日突然、「すまん」という言葉とともに帰らぬ人となるところから始まり、ひとり取り残された高橋扮する星太郎は途方に暮れることに。そんな星太郎の前に現れるのが、航が生前に書いた「あなたのためだけの花火を打ち上げます」というチラシを持った謎の女性・水森ひかり(本田翼)……だけじゃない。なんと、死んだはずの航が幽霊になったのか、星太郎だけに見える形で帰ってくるのだった。

 本作は脚本家・橋部敦子による完全オリジナルのドラマ。彼女が描くのはいつもちょっと不思議な空気感が漂い、だけど見終わった後にほっこりする幻想的な冬の時期にぴったりな作品だ。例えば、高橋が主演を務めた『僕らは奇跡でできている』(カンテレ・フジテレビ系)は、動物行動学を教える大学講師で、ちょっと変わり者の主人公が常識にとらわれない、ユニークな発想と言葉で周囲の人間の価値観を揺さぶるハートフルなドラマに仕上がっていた。

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