SF超大作『未来戦記』はルイス・クーの「俺はこれがやりたいんだよ」が詰まった珠玉の一作

SF超大作『未来戦記』は純度の高い香港映画

 そして注目すべきは、それらを再現するVFXの違和感のなさだろう。このクオリティはハリウッドの超大作と比べてもなんら遜色ない。ティルトローター機がビルに突っ込むシーンはド派手に、パワードスーツが細かく可動するシーンは精緻に。これほどのVFXをふんだんに使った香港映画は一度も観たことがない。しかも恐るべきはそんなVFXと香港由来のエッジの効いたアクションが融合しているところだろう。本作のアクション・コレオグラファーを務めるのは、成家班(ジャッキー・チェン・アクションチーム)出身の新鋭ジャック・ウォン。ケレン味のあるカメラワークとキレ味の鋭い編集によってドライブ感溢れるVFXアクションを実現している。VFXは世界に打って出るクオリティな一方で、決して香港映画の魂を失っていない。まさにSF超大作にして純度の高い香港映画に仕上がっている。

 また、本作はストーリーも香港らしくていい。娯楽作としてのストレートさを決して失わず、派手なアクションを邪魔しないシンプルかつ侠気溢れるストーリーになっている。その一方でサッドエンドとなってしまった映画に対するラウ・チンワンのセリフが印象的だ。「結末は自分たちで決める」これはまさに本作のテーマそのものだろう。『未来戦記』は香港映画の未来を切り開く映画であると同時に、「香港の未来は自分たちで決める」という決意をスクリーンに刻み付けた映画なのだ。本作が香港市民に絶大な指示を受け、香港におけるアジア映画の歴代興収記録を塗り替えたのは重要な意味を持つのではないかと思う。

 ちなみに本作の撮影が行われたのが2017年。それからポストプロダクション(VFXなどの作業)を経て完成させるまでに5年はかかっている。それくらい気合の入った映画なのだ。Netflixによるルイス・クーのインタビューを読むと、どうやら宇宙を舞台にしたSF映画や『未来戦記』の前日譚を作る予定だという。(※)『未来戦記』が歴史的ヒットを記録したからこそ、今後香港はSF映画の特産地として急成長していくのではないだろうか。自分で制作会社やVFX会社を作り、自分の好きなことをひたすらやりたい放題する一方で、香港映画の未来をきちんと見据えている。この奇妙なバランス感覚こそルイス・クーという男の魅力なのかもしれない。

 余談だが、ルイス・クーの制作会社「天下一電影」の記念すべき製作映画第1弾がAVバトル映画『大性豪』だったりする。本当にやりたい放題なルイス・クーだが、そんな制作会社が今やアカデミー賞にもノミネートされた『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021年)や『未来戦記』を制作しているのだからすごい。

参照

※. https://about.netflix.com/ja/news/warriors-of-future-louis-koo

■配信情報
Netflix映画『未来戦記』
Netflixにて独占配信中

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