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アクションで描かれる善と悪のカルマ 『SPL 狼たちの処刑台』が体現する香港ノワールの真髄を読む

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 香港ノワールをご存知だろうか? 1980年前後に香港を中心に世界的に流行した、黒社会の中での友情や裏切りを描いた犯罪映画のことである。ジョン・ウー監督の『男たちの挽歌』シリーズに代表されるような激しい銃撃戦とハッタリの効いたアクション演出、悲劇的な物語などが特徴で、カンフーやコメディのイメージが強かった香港映画のイメージを一変させ、クエンティン・タランティーノほか世界中のクリエイターたちにも影響を与えたジャンルだ。約40年の間に様々な監督や脚本家たちが手がけることで現在も変化しつづけており、ハリウッドや日本でリメイクされる名作も誕生している。

 そんな香港ノワールに、さらなる革新をもたらしたのが、『SPL』シリーズである。SPL(シャー・ポー・ラン/Sha Po Lang)とは、中国の占星術で人生に極端な影響を与えると言われている凶星(七殺星・破軍星・貪狼星)の頭文字をとったもの。シリーズを通じて、この星を背負った人物たちがたどる苛烈な運命を追う作品である。ウィルソン・イップ監督によるシリーズ第一作『SPL/狼よ静かに死ね』では警察と犯罪組織の衝突の中でそれぞれに属する人々の葛藤を、ソイ・チェン監督の第二作『ドラゴン×マッハ!』では国籍の異なる二人の刑事が臓器密売組織に挑む物語を描いた。いずれの作品も、肉体そのものや刃物を使った生々しいアクションと、善悪を超越した複雑に絡み合う人間ドラマがウリ。二つの作品にストーリー的な繋がりはないものの、どちらも血沸き肉躍る興奮と、心にのしかかる重厚なドラマを両立させ、これまでの香港ノワールにないテイストを生み出したのである。

 そして、現在公開中の『SPL』シリーズの最新作『SPL 狼たちの処刑台』は、前二作のコンセプトを踏襲しつつも、香港映画独特の魅力を備えるさらなる傑作となった。第37回香港アカデミー賞でアクション設計賞を受賞した本作について、「アクションが凄い」と語るのは野暮というもの。サモ・ハン・キンポーアクション監督のもと、ムエタイ超人トニー・ジャーや、16歳で八極拳の中国王者となったユー・ウエらゴリゴリの“動ける俳優”が戦いを繰り広げるのだから、クオリティが高いのは当たり前なのである。というわけでこの記事では、本作がそのアクションで“何を描いているか”に触れていきたい。

 『SPL 狼たちの処刑台』を異質のものとしているのは、アジア特有の“カルマ(業)”という概念である。カルマとは、仏教やインド周辺の宗教における考え方で、人間が善あるいは悪の行為を行い、因果の道理によって現世または来世で苦・楽の報いを受ける、というもの。早い話が「因果応報」のことだ。本作の主人公は、香港の警察官・リー(ルイス・クー)である。15歳の娘・ウィンチーがタイのパタヤで何者かに誘拐されたことを知り、リーは現地に急行。そして、地元警察のチュイ(ウー・ユエ)、チュイの同僚タク(トニー・ジャー)とともに捜査に参加し、やがて、ウィンチーが人身売買組織に誘拐されたことがわかる。すでにお気づきかと思うが、“誘拐された娘を助けるために父親が奮戦する”という物語は、リーアム・ニーソン主演で大ヒットした『96時間』そのまま。ウィルソン・イップ監督自身も『96時間』を鑑賞し、影響を受けたことを認めている。しかし、『葉問』シリーズなど、アクションの中で重厚なドラマを描いてきたイップ監督の手にかかれば、同じ枠組みでも全く異質なものができあがる。

      

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