『ハウルの動く城』スタジオジブリが描く“愛” 愛を与えるソフィーと愛を知ったハウル

 そんなソフィーを、ハウルは少年時代を過ごした花園へと誘う。まるで天国のようなその場所は、カルシファーと心臓の契約を交わした場所であり、彼が少年時代から心の在り処をひっそりと隠し、置き去りにしている場所でもあった。いわば不可侵領域の箱庭である。花園をソフィーに見せたいと言ったのは、過去からずっと彼女を愛しているのだという気持ちの表れであり、彼にとってソフィーが安寧の地と同じほど大切だという意味なのだ。

 そんな花園にも、戦争に駆り出された軍艦が介入してくる。このシーンはまさにスタジオジブリがいついかなる時でも観客に投げかけてきた、「戦争とは悪だ」というメッセージが込められている。戦いは愛をも踏みにじる――野の花を軍人が踏みしだくように、ソフィーとの時間を蹂躙されたハウルは怒りあらわにするのだった。

 ラストシーン、ハウルに心臓が戻ったのを見届けたソフィーは言う。

「そうなの、こころって重いの」

 愛を知らずにいたハウルに自分の全体重を預けさせながら胸中に飛び込むソフィーが言うからこそ、真実味を帯びてくる台詞である。

「愛を知った人」
「愛を識(し)り、与える人」

 ハウルとソフィーは愛において、ほんの少し遠回りだったかもしれないが、私たちに素晴らしいものを見せてくれた。我々はこの愛を信じ、抱きながら生きていかねばならない。空の向こうへ消えていく城と、過去から今、未来へ共にいることを選んだ2人を見守りながら、この世界に溢れる愛の形について考えてみたいと思う。

■放送情報
『ハウルの動く城』
日本テレビ系にて、1月6日(金)21:00~23:29放送
※放送枠35分拡大 ※ノーカット
脚本・監督:宮﨑駿
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
音楽:久石譲
声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、我修院達也、神木隆之介、大泉洋
原田大二郎、加藤治子ほか
©2004 Studio Ghibli・NDDMT

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