『かがみの孤城』辻村深月×原恵一の作家性が見事に合致 大人にも響く力強いメッセージ

 今作を鑑賞すれば、現実に存在する不登校の子どもたちに対して、どのように大人が接するべきかという問題にも思いがよぎるだろう。学校のみに頼らない、子どもたちのセーフティネットとなる環境の重要性が増している昨今において、頼れる大人の存在とともに、今作における孤城のような学校とは異なる安心感を与える居場所をどのように作り上げるのかという問題に行き着く。学校の在り方が問題になる昨今において、社会に訴えかける力も今作は宿っている。

 アニメーションパートではロシア出身のイリヤ・クブシノブが手がけた孤城のデザインや内装が印象に残る。日常パートでは日本的な民家が多く出てくるものの、このヨーロッパのような孤城のデザインと内装があるからこそ、一種のファンタジーとして成立する。それは空想上のものであると同時に、どこかに実際にあるようにも感じられ、現実とは違う一時避難所としての側面も感じ取れている。

 声優を務めたキャスト陣に目を向けると主人公・こころ役の當真あみ、アキ役の吉柳咲良、オオカミ様役の芦田愛菜など、役に近い年齢層の俳優が選ばれていることも、今作のポイントだろう。学生のリアルな気持ちを演技に昇華しているのが伝わってくる。またベテラン声優の高山みなみなどが脇を固めることによって、重厚さが備わっている。演技の質だけでなく、中高生など届けたい層に寄り添ったキャスティングにも好感がもてる。

 中学生の不登校の物語というと、少し身構える方もいるのではないだろうか。説教くさかったり、「実際の不登校児に寄り添っていない」「大人や世間のこうあるべきという価値観の身勝手さが目立つ」などと厳しい意見もあるだろう。だが今作は特に学校生活、そして大人になっても社会生活に馴染めない人々の心に届く作品だ。今の学校に息苦しさを感じていたり、あるいはかつてのサバイバーであった大人にも届く力強さとメッセージが、今作には宿っている。

■公開情報
『かがみの孤城』
全国公開中
声の出演:當真あみ、北村匠海、吉柳咲良、板垣李光人、横溝菜帆、高山みなみ、梶裕貴、矢島晶子、美山加恋、池端杏慈、吉村文香、藤森慎吾、滝沢カレン、麻生久美子、芦田愛菜、宮﨑あおい
監督:原恵一
脚本:丸尾みほ
キャラクターデザイン・総作画監督:佐々木啓悟
ビジュアルコンセプト・孤城デザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:富貴晴美
主題歌:優里「メリーゴーランド」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
企画・製作幹事:松竹、日本テレビ放送網
原作:辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ社)
制作:A-1 Pictures
配給:松竹
©︎2022「かがみの孤城」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/

関連記事