『孤独のグルメ』の10年間変わらない魅力 孤高の旅人・五郎さんを堪能する大晦日の喜び

 何より秀逸だったのが、第11話の「千葉県旭市の塩わさびの豚ロースソテー」回。豚の産出額が日本第2位である旭市の分厚いロース肉にたっぷりの塩わさびが乗った、五郎曰く「衝撃的」な味も気になってしかたがないのであるが、諏訪太朗演じるマスターと常連客のやり取りが素晴らしかった。

 五郎が店内に入った瞬間、一斉にこちら側を見てくる、マスターとカウンター席の人々。思わず「激しいアウェー感」と独白せずにはいられないほど濃密な、古くからの常連客の雰囲気。「マスター、ご飯だから帰るよ」「ちょっと犬にご飯をあげてくる」とふらっと去って、ふらっと戻ってくる自由度の高さと、それを受け入れるマスターという、日常の風景なのだろうそのやり取りを「自由すぎる、面白すぎる」と心の中で言いながらそっと見つめている五郎。食事を堪能した後、懐かしいミルクセーキの味を楽しんでいる五郎に、マスターが「お客さん、どちらから来たんですか?」と話しかけ、犬の餌やりを終えて戻ってきた常連客の1人も加えた、他愛のない談笑タイムが繰り広げられる。それは、いわば「余所者」である五郎が、何十年も変わらずそこにある店の歴史の中に大らかに受け入れられる瞬間であり、心を通わせた人々の体温が店全体の温度をほんのりと上昇させる優しい瞬間でもある。その後寒空の店の外にまで出て、五郎を見送るマスターの後ろ姿がキュートで仕方がなかった。

 『孤独のグルメ』は、食を巡る旅人のドラマでもある。旅人は常に孤独だ。店主と常連客のやり取りが垣間見せるその店その店の日常、誰かのありふれた生活の一部をそっと見つめるけれど、彼自身がその中に入ることはない。「通いたい」「できれば明日も食べたい」「とりあえず1カ月ぐらい住みたい」と思いつつ、いつかまたふらりと立ち寄ることができる日を楽しみにその地を後にする。そうやって、愛おしい心の故郷をいくつもいくつも作っていくのが、孤高の旅人の旅の醍醐味なのだ。

 さて、今年も大晦日は、『孤独のグルメ2022大晦日スペシャル』である。シーズン10第5話でも登場していた、昨年の大晦日でも大活躍“小さな相棒”と共に、北海道を舞台に、ロードムービーを繰り広げるということ。それこそ究極の、一期一会、人と食との出会い旅。毎年年越しそばでは足りなくなりそうなほどの完全なる“飯テロ”具合で困ってしまうのだが、北海道グルメの堪能旅ならなおのこと。心して臨もう。

■放送情報
『孤独のグルメ2022大晦日スペシャル 年忘れ、食の格闘技。カニの使いはあらたいへん。』
テレビ東京系にて、12月31日(土)22:00~23:30放送
主演:松重豊
原作:『孤独のグルメ』作・久住昌之/画・谷口ジロー(週刊SPA!)
脚本:田口佳宏 
音楽:久住昌之、ザ・スクリーントーンズ
演出:井川尊史、北畑龍一
チーフプロデューサー:祖父江里奈(テレビ東京)
プロデューサー:小松幸敏(テレビ東京)、吉見健士(共同テレビ)、北尾賢人(共同テレビ)
制作協力:共同テレビジョン
製作著作:テレビ東京
©テレビ東京
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kodokunogurume_omisoka2022/
公式Twitter:@tx_kodokugurume

『孤独のグルメ Season7』第1話〜第7話
『孤独のグルメ2021大晦日SP』(再放送)
テレビ東京系にて、12月31日(土)7:45~13:30放送 

『孤独のグルメ Season7』第8話〜第12話
『孤独のグルメ Season8』第1話~第5話、第7話~第11話
テレビ東京系にて、2023年1月1日(日・祝)9:00~17:55放送

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