『孤独のグルメ』の10年間変わらない魅力 孤高の旅人・五郎さんを堪能する大晦日の喜び

「富山のかに面おでん、いつか必ず食べる」

 と思わず手帳に書いたのは、11月25日放送の『孤独のグルメ』(テレビ東京系)第8話放送後のこと。それほど美味しそうだったのだ。寒くなってきた11月の末、「みかんの缶詰サイズ」の分厚い大根のおでんに、美味しそうすぎるかに面(五郎さんはそれを使っておでん風蟹飯までしてしまう!)、バイ貝の煮付け、白えびのかき揚げ、昆布締めに至るまで全てが堪らない。「あと20年、健康でいてもらわないと困りますから、飲みすぎ注意ですよ」と女将さん(上地春奈)にたしなめられている隣の常連さんが飲んでいる地酒を見るにつけ、「ああ、通いたいなあ」と思うほど。

 テレビ東京が誇る深夜グルメドラマの金字塔『孤独のグルメ』は、シリーズ10作目にして10周年目を以てしても衰え知らず。むしろ、例年にも増して行ってみたい店、いや、通いたい店が増えているような気がするのである。それはもう、『孤独のグルメ』自体が、テレビの前の私たちにとって、秋から冬にかけて、金曜日の夜に必ず訪れる「いつもの店」と化しているかのような安心感。10年間何があっても、基本的に同じ構成、同じスタンスを続けてきた本作の「変わらない」魅力ゆえだろう。

 なおかつ、グルメドキュメンタリードラマとして、コロナ禍によるマスク生活という、大きすぎる私たちの生活環境の変化はしっかりと反映しつつ、それゆえに強いられた、飲食店の「変わらないでそこにあり続ける」ための並々ならぬ苦労と努力の末の光景をしっかりと描き続けてきた。さらに、収録前夜から食事をセーブし、朝は絶食して収録に臨むことで、より「リアルにドキュメンタリーとして映像に残したい」と言う松重豊の、「変わらない」でいるために、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の伴虚無蔵ばりに「日々の鍛錬を惜しまない」ストイックぶりもまた。

『カムカム』虚無蔵は松重豊本人とも重なる 『孤独のグルメ』井之頭五郎との類似点も

いつも通る地下鉄の駅に松重豊のポスターが貼ってある。まっすぐ前方を見据える表情は「テロをゼロへ」というコピーと合わさってインパク…

 「シーズン10」はとにかく通いたくなる店が多かった。前述した「かに面おでん」もそうだが、第10話の豚肉腸粉と朝鮮人参粥も心かき乱されたし、第6話の「とんちゃんとけいちゃん」にも会ってみたい。第7話の蕎麦屋で沖縄料理も食べたいし、第4話の住宅街という名の「ハングリーロード」の末の洋食屋さんの牛タンシチューのオムライスを食べて「ギャーッ」と言いたい。とまあ、食べたいものをあげるときりがないのであるが、「行きたい」ではなく「通いたい」と言うのは理由がある。なぜなら、作品の随所に見られる、五郎(松重豊)が見つめる「常連客と店主のやり取り」がとてつもなく愛おしいからだ。

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